第12話

2/2

354人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「何があったんです? 悩みがあるなら、私に話してしまうと楽ですよぉ」  茶目っ気たっぷりに沢城さんが迫る。楽になるだろうか。いや、そんな気は全くしないのだが。でも、ここが居酒屋でなくてよかった。お酒でも飲んでたら、思わず言ってしまいそうだ。  僕は笑みを浮かべて返す。沢城さんの笑顔には勝てないけど。 「ありがとうございます。でも、大丈夫です」 「そうですかぁ。残念」  沢城さんは、前髪をつといじる。整髪料でふわりと固めてあったものを手櫛で取るようにして、少し額にかかる。それを何とはなしに僕は見つめていた。 「先生、ちょっと僕とドライブしませんか?」 「え? なんで……? ドライブしても、何も話しませんよ」  沢城さん、仕事中なんじゃないのか。あの車は沢城さんのかな。随分カッコいい外車なんだ。実はそれには少し気になっていた。僕は料理の次にロックと車が好きなんだよ。 「そんなこと思ってませんよ」  ホントかよ。 「先生、車好きでしょ。あんなマニアックな車乗ってるから、そうかなぁって。ご存知と思いますが、僕は自動車メーカーの技術者で。あれはモニター車なんですよ。海外の高級車を乗り回すにはいい立場でねぇ。どうです? 乗ってみませんか?」  僕は駐車場に停まっている沢城さんの車を見る。高級スポーツカー。僕もディーラーで色々試乗させてもらうけど、あれはまだだ。 「運転は、無理ですよね」 「ふふぅ。本当は駄目ですけど。N市にウチと提携しているコースがあるんで、そこなら運転もOKですよ」  運転できる! してみたい! そう思いだすと、もう僕を止めることは出来ない。大丈夫だ。沢城さんはノンケだし、少なくともヤバいことにはなりようもない。 「お願いします」  僕の答えに、沢城さんは満足そうに頷いた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

354人が本棚に入れています
本棚に追加