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第13話
カフェの駐車場に車を置いておくのは憚れたので、公民館に戻り、置かせてもらうようお願いした。閉館時刻までに戻ると約束して、沢城さんのスポーツカーに乗り込む。
と、その時、電話がかかってきた。舞からだ。僕の帰りが遅いので心配したのだろう。
「もう少ししたら帰るから、舞は帰っていいよ。申し訳なかったね」
『祥、あんた今、誰といるの?』
「え、誰って……その」
なんで僕が誰か、それも知られたくない人といるってわかるんだろう。特殊能力でもあるんだろうか。
『もし、その人が鹿島さん以外の生徒さんだったら、今すぐ帰って来なさい』
「ち、違うよ。仕事だよ」
嘘を吐いてみる。
『嘘つきなさい』
「ご、ごめんなさい。あ、でも、相手は沢城さんだし。仕事の話してるんだよ。彼、ほら、ノンケだから変な心配はいらないよ」
仕方ないので、半分くらい本当のことを言った。すると舞は耳にかかるほどの大きなため息を吐いた。
『あんた……心底、間抜けね。知ってたけど。まあいいわ。あんたも大人だし、自分のことは自分で責任取りなさい。じゃ、遠慮なく私は帰るから』
「あ、うん。お疲れ様」
なんだかとっても突き放されてしまったけど、舞は心配性なんだよね。僕はスマホをしまって、いよいよ憧れのスポーツカーに乗り込んだ。
凄い! 一気に加速するこの力強さはさすがだ! 国産車では絶対こうはいかない。
「わが社でもこういう車造りたいんですけどね。ま、飛ばすところがないんでねえ」
見事なハンドル捌きの沢城さんが隣でそう言った。運転するにはやはり長袖の袖口をまくる。どうにもカッコいい。
「にしても、運転お上手ですね。さすがです」
「え? ああ、久しぶりに言ってもらえたなぁ。社内ではそれが普通なもんだから、誰も褒めてくれません」
「またまた。こんなドライブテクニック見せられたら、女の子が放っておかないでしょう」
なんて、近所のおばさんみたいなことを言ってるな、僕。
「先生はどうなんですか?」
「え? 僕?」
提携コースのあるN市まで高速で30分ほどだ。気持ちよく走行車線の車を抜きながら、沢城さんが聞いてきた。
「先生は、僕の運転にビビッと来ませんでしたか?」
ちらりと盗み見るように沢城さんが僕の方を向く。なんだか雲行きがおかしくなってきた。僕はようやくそのことに気が付いた。
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