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第14話
天気は快晴。車高の低いスポーツカーは僕らに軽いGを掛けながらハイウェイを疾走していく。エンジン音が雄叫びを上げる。今時流行らないけれど、僕は嫌いじゃない。だけど、今はそれを味わう余裕がない。
隣で長袖ワイシャツをまくり、小さく肉厚なハンドルを握る沢城さんが、ご機嫌に鼻歌を歌っている。車内には僕の好きなロックナンバーが流れているんだ。これももしかしたら調査済みなのかもしれない。
僕は、この沢城さんと言う人が思っていた人とは全く別人であることを知った。それとも、僕が勝手に描いていただけなんだろうか。人の好い穏やかなノンケの男性。考えてみれば、そんな人が大企業で出世頭になるわけがない。
「私の予想を言ってみますねぇ」
「……」
返事が出来ない。ごくんと唾を飲み込んだ。
「先生は、鹿島さんと一線超えたでしょ」
「えっ……」
「あ、これはね。たぶん山崎さんでも気付いてることだから」
山崎さん。それは男性限定クラスで最も無口な五十代の人だ。奥様が早くに亡くなって、一緒に暮らしていた娘さんも結婚する。家で一人になってしまうにあたり、少しでも料理が出来たら、と僕の教室に応募してくれたんだ。泣ける話でしょ? あ、そんな場合じゃなかった。
「でもって、美原さんともやっちゃった。どこまでかは知りませんが。鹿島さんには言えないですよね。美原さんも隠してるところを見ると、無理やりだったかな?」
なんて答えればいいんだよ! まさかその通りですぅ。なんていうわけにもいかない。でも、なに、沢城さんって、実は裏の顔が公安とか。なワケないか。
「驚きました? まぁ、他の人はここまでは気付いてないと思うけど、三人の緊張感。思い出しても笑える」
とか言って笑いだした。もうどうしていいかわからない。
「それでぇ、さっきの話ですが。先生のその気の多いところ、嫌いじゃないですよ。私のことも、少しは気になってくれましたぁ?」
最初の質問に戻ってしまった。気が多い。確かにそうかも! てか、応募者からアラサー三人組を選んだ自分が馬鹿だったんだ。でも、まさか全員がそっち系とは思わなかったよ!
「私のこと、ノンケと思ってたでしょう。ふふん。そういうの、うまいんですよ」
ああ……舞の言う通り、僕は間抜けだ。
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