354人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
エレベーターの扉が開く。僕が先に出ようとすると、その美原さんの左手が僕の右手を掴んだ。
「この間の非礼を詫びさせてもらえませんか? ここのステーキ、美味しいですよ」
右手でツンと眼鏡のブリッジを上げる。ふと眼鏡を外した美原さんの顔を思い出す。眼鏡かけてるときも素敵だけど、外すと王子様みたいに綺麗なんだ。二重瞼が形の良い瞳をより美しくかたどって。
「あ……じゃあ、はい」
時間は丁度お昼時。僕はお腹が空いていると自分に言い訳して、美原さんの誘いに乗ってしまった。ごめんなさい、鹿島さん! でも、食事だけだから。食事だけ……。
の、つもりだったのに、どうしてこうなってるんだろう。
「ステーキは油が飛ぶんで」
そうだ。美原さんがそう言って、眼鏡を外した。
ランチタイムのステーキハウス。有閑マダムたちが席を埋めていた。美原さんは気を使って個室にしてくれたんだけど、涼やか過ぎる双眸に僕は狼狽えてしまったんだ。
「先生。それって、僕のこと誘ってるんですよね?」
デザートがテーブルに置かれたころ、美原さんの位置が、来た時よりも何故か距離が縮まってる気がした。加えてその発言。
「いえっ。誘ってません。断じて誘って……」
言ってる途中で顎クイされる。きらりと黒曜石みたいに光る瞳が僕の視界を占領した。
「オレにスイッチ入れるんじゃないよ。先生……。あざと過ぎだろ」
み、美原さんがまた野獣になってる。スイッチなんて僕は預かり知らないよ! あざといのは……舞にも言われるから自覚してるけど。
僕はフルフルと頭をふって、無実を主張した。恐る恐る右手を上げて顎クイされている美原さんの腕を持つ。
「め、眼鏡を外した美原さん、素敵だと思っただけで……無罪です」
「有罪だよ!」
僕は荒々しいキスに晒され、そのまま部屋へと連れて行かれてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!