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第20話
部屋はこのために取ったわけでなく、たまたまここで仕事をしていたよう。部屋の事務机には書類や資料がきちんと重ねられて、几帳面な彼らしいな。と束の間の感想。
美原さん、この間みたいにすぐ紳士に戻るかなと思ってたんだけど、そうはいかなかった。僕は乱暴に洋服を剥ぎ取られ、ベッドに沈められた。
眼鏡をベッドサイドに置き、自らも服を脱ぎ捨てる。思いも寄らぬ筋肉質の体に、僕はまたときめいてしまって。
「ガタイがいいのは鹿島だけじゃないんだよ。オレだって鍛えてるからな。弁護士舐めんな」
「なめてませんっ」
何を僕は言い返してんのか。物凄く悪いことしてるって自覚はあったんだけど、この展開がツボで止められない。こんなだから舞に怒られるんだよね。
「綺麗だな、先生は。その怯えた瞳もたまらない。いい思いさせてやるから、じっとしてろ。あんなデカ野郎のこと、忘れさせてやる」
うわあん、忘れたくないけど、忘れちゃうかも!
「あふっ」
濃厚なキスが降ってきた。思い切り舌を入れられて、唇からよだれが洩れる。
「はあっ、はあっ」
美原さんの荒い息が耳に反響する。このまま流されちゃいそうだ。一生懸命抵抗してるつもりだけど、多分本気じゃない。そのうち、ヤバいところに美原さんの手がっ。
「あっ……んっ」
思わず声が出てしまった。
「ふううん。感じてるんだ。清純そうな顔して、実は淫乱だったってわけだ」
淫乱って言われた! でもそこ触られたら、反応しちゃうんだよっ。
「やめて、下さい。美原さんっ」
清純とは言わないけど、とりあえずそう訴えてみる。でも内心、ここでやめないよね。と、思ってたのはここだけの秘密。
「嘘つけ。やめて欲しくないくせに」
図星……! 瞬間でバレてる! 僕は美原さんにと言うより、自分の性に観念して諦めた。その時だった。
――ビビッ! ビビッ!
スマホのバイブ音がホテルの部屋に鈍く響いた。僕のは鞄の中に入ってるので違うだろう。丸いテーブルの上で揺れているので美原さんのだ。なんだ、こういう時に電話の音鳴らすなんてデリカシーなさすぎだ。
「はっ……」
僕の上に跨り、今まさに最後の一枚を脱がそうとしていた美原さんが、その動きを止めた。
「ああっ……またやってしまった……」
ベッドで仰向けになってる僕を、美原さんは済まなそうな表情で見下ろした。紳士な美原さんが戻ってきたみたいだ。
こうなっちゃうと、先に進むのが憚れるよね。僕はとっても残念な気分で、舌打ちしそうになったけど、寸でのところで耐えた。
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