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第22話
その週の男性限定教室は、色々気を使いながらだったけど何事もなく終わった。本当にこのクラスの緊張感、なんとかならないものかな。でも……実はちょっとそれが癖になりそうで。何でも楽しむのが僕のモットーだし。
鹿島さんはいつもながら素敵だった。海辺のデートを二日後に控え、僕らは何度もアイコンタクトをした。
美原さんは、いつものポーカーフェイスに戻ってた。僕も、この日ばかりは彼を挑発しないように気を付けたよ。
鹿島さんと僕の様子を見ていた沢城さんからは耳打ちされた。
「何か、良い事でもあるんですかぁ? 私も混ぜて欲しいですねぇ」
「何もありませんよっ。あっても沢城さんを混ぜることはしませんから」
ぴしっと言っておいた。こんな綱渡りも何度となくしていれば、慣れてくる。そう、これも楽しまないと。
「先生、今日はいつになくご機嫌ですやん。なんかええことありました?」
うおっ、ノーマークな松田さんからツッコミが。
「それはワシも気付いとったよ」
あ、小島さんまでそんなことを。
「皆さんが毎回ちゃんとここに来て下さってることが嬉しいんです」
嘘じゃない。みんな「えーっ」とか言ってたけど。
そしてついに初デートの日が来た!
お天気はイマイチだけど、何とか雨は免れそうだ。僕は早朝5時起きでお弁当を作成。料理研究家の名に懸けて、絶対驚くような作品を作るんだ! でも、中身はオーソドックスなのが一番だよ。卵焼きは欠かせないね。
鹿島さんのマイカー、ハイブリッド車に乗り込み、僕らは海へと出発。鹿島さんは黒のジャケットにデニムと、いつものスタイルだけど、足が長くてカッコいい。
「普通の車で悪いな」
「エコな車。鹿島さんらしくて好きです」
スポーツカーはしばらくお腹いっぱい。それにいつもならエコカーなんて退屈と思うけど、鹿島さんの隣だからドキドキしてる。車は何に乗るかじゃなくて、誰と乗るか。だよ。
初夏というのに、少し肌寒かったけど、海辺で食べるお弁当はいつも以上に美味しく感じる。鹿島さんも、凄く喜んでくれた。卵焼きは今まで食べた中で一番美味しいって言ってもらえたし。
デザートのフルーツ寒天を食べてるときに、ついに雨が降ってきてしまった。僕らは慌ててピクニックシートを畳む。でも、結構強く降ってきた。鹿島さんは僕の腕を取って浜辺を走った。わあ、もうキュン死しそうだよっ。
「とりあえず、ここで雨宿りしよう」
はあはあしながら、僕らは夏を待っている海の家に飛び込んだ。もちろん店は閉まっているので、テラス部分の小さな屋根の下だ。荷物を置いて、止みそうにない雨を見ていた。
「はくしゅっ!」
少し冷えたのか、僕はくしゃみをしてしまった。
「寒いのか、祥」
優しい声とともに、鹿島さんが僕を上着の中に入れてくれた。ふわりと暖かい空気が僕を包み、鹿島さんの体温が体中に伝わっていく。
――――うわあ……血液が沸騰しそうだ。暖かいというか熱いよ。
「祥……」
鹿島さんの低音の声が僕の名前を呼ぶ。僕がその声に誘われるように上を向くと、彫の深い彼の顔が……。
「んん……」
優しいキスが降ってきた。僕の頬に手を当て、より深く僕を味わってくれている。
屋根から雨だれが落ちていく。濡れすぼむ浜辺の向こうで波の音が繰り返される。まるで、映画のワンシーンのようだった。
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