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第24話
明日は午前中にマダムのクラスがあって、午後からはお菓子のクラスがある。両方ともすでに材料の手配は済んでる。
いつもなら、明日の準備をキッチンルームで黙々としてる時間なんだけど、なんだか体が重くて(それよりも気持ちが重い)、僕はソファーでダラダラしていた。
鹿島さんとのデートが突然終わり、夕食も食べる気にならず、その辺の残り物をつついている。お酒もあまり得意じゃないのに、ワインなんか開けちゃった。
ふと見ると、僕のスマホに着信が入っている。僕は鹿島さんかもと思って慌ててロックを外した。事件が終わって、会えるのかもしれない。
違った――――。
『デート終わりましたぁ? 十分満足してるかな?』
沢城さんだ。なんだよ。何でも知ってるふうで、盗聴器でも付けてんじゃないだろうなっ。沢城さんには前回、強引にアドレス交換させられた。ブロックするのは自由だからとか言って。お望み通りブロックしてやる、もうっ。
そう決意したのに、僕は別のことを送っていた。
『満足してません。事件に彼を奪われました』
送ってから、僕はハッとする。わっ、心の声が暴走した! 返信は瞬殺で来た。まるで既に打ってあったかのような速さだ。
『了解です。代打はお任せあれ』
『いやっ、嘘、冗談です。代打しなくて結構です!』
僕は慌てて返信の返信をする。でも、沢城さんからは了解のスタンプが送られてきただけで、その後は既読すらつかなくなってしまった。
このまま彼を迎え入れちゃったら、またなし崩し的につまみ食いされちゃう。いや、今度は家だし、つまみ食いで済まなくなるかも!
僕はテーブルの周りでおろおろしていた。すると、インターホンが。もう来たのか。早っ。
「代打でぇす」
酔っ払ってんのかと思うテンションでモニターに映る沢城さん。今日は仕事があったのだろう。いつものスーツ姿に涼やかなネクタイを嵌めていた。
「どうぞ」
とりあえず、上げるしかない。でも、心を強く持とうと僕は思った。そのために、キッチンルームに電気を付ける。
「これから明日のクラスの準備をするんです。代打にいらしたなら、お手伝い願います」
しれっと僕はそう言った。そんな手伝いなら、嫌がって帰るだろう。そう思ったんだ。
「あ、それは楽しそうですね。是非!」
高いテンションそのまま、沢城さんは高級ブランド靴を脱いで、さっさとキッチンルームに入っていってしまった。
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