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第28話
夜のキッチンルームにカレーのいい匂いが満ちている。やっぱり夏はカレーだね。今週はどのクラスでも、夏野菜を作ったカレーをメニューに取り上げている。それぞれのレベルに合わせたレシピだ。このクラスのは初級だけど、それでも市販のルーは使わない。
「先生、これ、カレー粉やないんですか? 匂いせえへん」
松田さんがターメリックの粉をクンクンしている。
「違いますよ。今回のカレーはカレー粉を使わずにつくりますからね」
へえっ! と、驚いた様子の松田さん。小島さんが、『それはウコンですよ』、と教えていた。
「先生、先生」
僕が調理台の周りを歩いていると、沢城さんに呼び止められた。彼は声を顰めて僕に問いかける。
「先生、鹿島さんと一緒に住むって本当ですかぁ?」
うっ、相変わらずの早耳。
「沢城さん、うちに盗聴器しかけてないでしょうね」
「何言ってるんですかぁ。さっき鹿島さんご本人から言われたんですよ」
「え! そうなんですか」
「もうつまみ食いはさせないから。って言われましたよぉ」
マジか。鹿島さん、なかなか大胆な。
実は、僕は鹿島さんに巧妙な取り調べを受け、全て吐かされてしまったんだよ……。
あの風邪が全快してから最初のデート。鹿島さんは僕の寝室で、取り調べを始めた。
「あ……んん……」
ベッドの上で、僕は鹿島さんに愛されて、極上の気分だった。
「祥、気持ち……いいか?」
「え……う、うん……とっても」
僕は息を吐きながらそう応えた。そんなこと聞くなんて恥ずかしい。
「じゃあ、俺の質問に答えろ」
「え?」
「正直に答えないと、すぐやめるぞ」
そう言って、鹿島さんは動きを止めた。そ、そんな、ここで止められたら……。僕の狼狽えるさまを、鹿島さんは楽しむように口角を上げる。
「沢城と、それから美原と。どこまでやった? どんなことした?」
鹿島さんは腰を動かしながらそんなことを聞くんだ。もう、僕は……本当のこと言うしかないよね。
鹿島さんは舞から、僕のこと聞いてたんだ。僕はあの熱を出した朝、やっぱり微熱が出てきたので、一人で寝室に戻った。そのすぐ後、鹿島さんは舞と話をしたらしい。
『祥は、基本淫乱です。無節操にモテ、無節操に惚れるんです。しかも本人は自覚なくて。鹿島さん、苦労しますよ』
酷いよね。まあ、半分くらいは、同意するけど……。取り調べの結果、鹿島さんの出した結論。
「俺はここに越してくる。構わないか?」
その結論の速さと潔さに、僕は嬉しいとともに感動した。
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