第3話

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 今日のレッスンも終わり。生徒さんを送り出す。一息つきながら、僕は落ち着かない。どうしてもインターホンに目がいってしまうんだ。また鳴らないかと思ってドキドキそわそわしてる。  鹿島さん、先週は何も言わず、逃げるように帰ってしまったし、あれから1週間、何もなかった(連絡先を交換しているわけでないから、あるわけないんだけど)。  今日、僕は盗み見るみたいにしてたけど、彼はどうだったのかな。鹿島さんは彫が深くて外国人みたいなんだ。長い睫毛も素敵なんだよ。  ――ピンポーン 「来た!」  僕はインターホンに飛びつく。はしたないけど、めっちゃ待ってた。 『俺です』  予想通り、モニターには鹿島さんの姿が映っていた。黒い薄手のジャケットを羽織って、カメラを睨んでる。僕は、心臓がはためくのを抑えながら扉を開けた。 「先生、先週はいきなりすみませんでした」  ぶっきらぼうなんだけど、このワイルドさが僕のツボだ。どうしよう。生徒さんとこんな関係になっても大丈夫かな。  僕は鹿島さんを家に上げもせず、玄関のタタキで話をした。生徒さんが出入りするからかなり広めの玄関だけど、それでも距離が近い。 「いえ……あ、でも困るって言ったほうがいいのかな」 「もし、良かったら」 「はい」 「もう一度忘れ物もらってもいいかな」  え……それって、そういうことだよね? 僕は真っ赤になったまま、頷いた。鹿島さんの大きな手が僕の顎にかかり、上を向かせる。あの時感じた柔らかい唇が乗せられて……。  この間は驚きすぎてわかんなかったけど、どら焼きみたいな感触だ。甘くて柔らか……。鹿島さんの唇が僕のそれを食みだした。わあ、蕩けそうだよ。  ――ピンポーン!  鹿島さんとの甘いキスに僕がうっとりとしたとき、またインターホンの音が玄関に鳴り響いた。僕らは慌てて体を離した。 「だ、誰……?」  僕は玄関のモニターを覗く。そこには、美原さんが立っていた。
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