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第4話
鹿島さんに申し訳なかったし、僕もとっても残念だったけど、無視するわけにはいかない。僕はインターホン越しに美原さんと会話を始めた。
「どうしましたか?」
「先生。さっきの続きをお話したくて戻ってきました」
さ、さっきの続き? 僕は彼との『さっき』を思い出す。もしかして、あれか。指を怪我したときの『僕のことも見てください』、とかいう。
――――はっ。
目の前で鹿島さんが凄い顔して僕を見てる。違う、誤解だっ。
「俺、帰るよ」
「か、鹿島さんっ」
鹿島さんはぷいっと体を翻して、玄関のドアを開ける。そこには当然、美原さんがいた。
「あれ、どうしたんですか。鹿島さん」
美原さんの声。驚くと言うより、完全にムッとしている。
「俺は忘れ物取りに来ただけだ。もう済んだから」
もう済んだって、どういうこと? わあん、せめて連絡先を……。あ、僕知ってたや。後で連絡してみようかな。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、鹿島さんは振り向きもせず行ってしまった。彼と入れ替わりに玄関に入って来た美原さん。眼鏡男子の彼はさらさらヘアを手でさっと掻き上げた。
「先生。鹿島さんとやっぱり……」
「何もないです。それより、さっきの続きってどういうことですか」
美原さんがイケメンなのもわかるし、眼鏡男子もタイプだけど、今は鹿島さんのことで僕の頭はいっぱいだ。僕はちょっと憮然としてそう尋ねた。
「あ……。僕、お邪魔だったんですね。すみませんでした。ホタルイカの下ごしらえを予習したかったんですが」
「え……」
さっきの続きって、そっちだったのか。なんとなくバツが悪い僕。
「いえ、でももう遅いですし、後で僕からメールでやり方を送りますよ」
僕は口角を上げ、精一杯の笑顔を作った。
「ほんとですか。良かった……先生の笑顔が見れて」
「えっ?」
僕の身長は176cmだから、決して低くはない。でも、鹿島さんも美原さんも、ついでに言うと沢城さんも僕より背が高い。鹿島さんが一番高身長だけど、美原さんも僕より五センチは高いと思うんだよね。
その彼の手がすっと僕の目の前を横切って頬にあてがわれた。指には今日貼った絆創膏が。どうしよう、また僕の心臓がバクバクしてる。
「可愛い」
「あ、あの」
僕は美原さんの手を払おうと右手を上げると、それを今度は逆の手で掴まれてしまった。どうしようっ。絶対絶命な感じだよ。
「そんなに怯えた顔しないで。何もしませんから」
何もしない? あれ、僕なんでがっかりしてるんだろう。そこはホッとするところだろ。
「実はここの料理教室に申し込んだの、先生に興味があったからなんです」
「え? そうなんですか?」
美原さんは僕の頬と手首から手を離すと、眼鏡のブリッジをすっと上げてそう言った。
「料理をやってみたいと思ってたところに、書店で先生の本を見つけて……一目惚れですよ。ネットを検索してたら、ちょうどこの教室の募集をしていたので慌てて応募したんです」
一目惚れって……嬉しいんだけど。どう反応すればいいんだろう?
「習っていて益々好きになりました……先生」
「は……はい」
「僕と付き合ってくれませんか。もちろん、恋人として」
美原さんはいつものクールには似合わず、少し頬を赤らめてそう言った。
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