第5話

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第5話

 美原さんは返事はいつでもいいから。と、言って帰っていった。僕の心は千々に乱れた。もちろん鹿島さんへの気持ちは高まる一方なんだけど、美原さんの真摯な告白にやっぱり心奪われてしまう。僕はそんな尻軽じゃないはずなんだけど。  僕が今まで付き合ってきたパートナーは、どちらかというと強引に迫ってくるタイプだった。つまり、鹿島さんみたいなグイグイくる男っぽい人。だから、あんな風に告白されたのは初めてなんだ。僕はなんだかふわふわしちゃって、結局鹿島さんに連絡を取るのをやめてしまった。  モヤモヤしたまま夜の教室の日が来てしまった。あの二人にどんな顔して教えたらいいんだろう。僕は悩みながら、教室、つまりキッチンルームを軽く掃除していた。   ここは僕の家を増築して作った教室なんだ。これが出来るまでは小さな自宅キッチンと公民館なんかで仕事していた。ネット配信もしたけど、やっぱり僕は目の前に生徒さんがいるスタイルが好きなんだ。  ――――ピンポーン  あれ、まだ一時間以上あるけどな。早く来ちゃったのかな。僕はもしかして鹿島さん、それとも美原さんかもと思って、性懲りもなくドキドキしてしまった。 「先生、すみませぇん。早く来てしまったんだけど、大丈夫ですかねぇ」  モニターに映っているのはエリート会社員の沢城さんだった。いつもながらスーツをビシッと着ている。まだ三十前なのに一部上場企業の課長代理だから、きっと出世頭だよね?   沢城さんはアラサートリオの中では、一番若いんだよ。でも、髪型とか七三分けの短髪だからそう見えない、落ち着いた物腰柔らかな人だ。 「いいですよ。どうぞ」  本当は入れたくないんだけど、外は雨だし、まあいいか。って思ってしまった。こういうとこだよね。僕のダメなのは。 次ページに続く
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