第5話

2/2

354人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
 沢城さんはいつものニコニコ笑顔で入って来た。傘を傘立てに置き、ハンカチで濡れた個所を吹いている。そして上着をハンガーに掛けた。 「申し訳ない。お詫びになにかお手伝いしますよ」  僕がテーブルを拭いていると、カッターシャツをめくって隣にやってきた。わあ、僕その仕草に弱いんだよ。シャツから覗く腕の筋肉が丁度よい感じでセクシーだ! 「あ、えっと、それでは、そちらのテーブル拭いてもらえますか」 「了解」  雨のせいか、いつもはきっちり止まってる前髪がふわりと額にかかってる。僕の胸がざわざわしてるのは、気のせいじゃないよね。 「どうしました? 顔が赤い。熱あったりして!?」  沢城さんは何の躊躇もなく僕の額に手を当てた。いや、マジで熱上がる! 「熱はないみたいだなぁ。えっ! 先生、大丈夫?!」  僕が今にもぶっ倒れそうになっているのを、沢城さんは慌てて抱き起した。すっごく近い。 「だ、大丈夫ですっ」 「そう? あ、すみません。つい」  僕はテーブルに片手をついて自分の体重を支えた。沢城さんは僕から少し離れてその様子を暖かな双眸で見ている。僕は動悸を整え、背筋を伸ばす。 「先生、最近困ってませんか?」  沢城さんがハスキーボイスで問う。 「え? いえ、別に困りごとはないですよ」  鹿島さんと美原さんのことはちょっと困ってる、というかどうしたらいいのかわかんなくて迷っている。でも、そんなこと言えるわけもないし。 「そうですかぁ? 私の勘違いかな。私で良ければ何でも相談にのりますから、遠慮なく言ってくださいねぇ。まあ、法律と犯罪は別に専門家がいるけど」  今の案件は、その専門家が絡んでます。 「ありがとうございます。沢城さんはお優しいですね」  僕は世辞でもなくそう言った。 「いやあ、そればっかりでね。おかげで彼女もいないんです」  いつもより自由な前髪を掻き上げる。爽やかな風がその笑顔と共に僕の前を横切った。沢城さんはきっとノンケだ。本当に困ったら相談しようかな。彼を見上げながら、僕はそう思った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

354人が本棚に入れています
本棚に追加