354人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
沢城さんはいつものニコニコ笑顔で入って来た。傘を傘立てに置き、ハンカチで濡れた個所を吹いている。そして上着をハンガーに掛けた。
「申し訳ない。お詫びになにかお手伝いしますよ」
僕がテーブルを拭いていると、カッターシャツをめくって隣にやってきた。わあ、僕その仕草に弱いんだよ。シャツから覗く腕の筋肉が丁度よい感じでセクシーだ!
「あ、えっと、それでは、そちらのテーブル拭いてもらえますか」
「了解」
雨のせいか、いつもはきっちり止まってる前髪がふわりと額にかかってる。僕の胸がざわざわしてるのは、気のせいじゃないよね。
「どうしました? 顔が赤い。熱あったりして!?」
沢城さんは何の躊躇もなく僕の額に手を当てた。いや、マジで熱上がる!
「熱はないみたいだなぁ。えっ! 先生、大丈夫?!」
僕が今にもぶっ倒れそうになっているのを、沢城さんは慌てて抱き起した。すっごく近い。
「だ、大丈夫ですっ」
「そう? あ、すみません。つい」
僕はテーブルに片手をついて自分の体重を支えた。沢城さんは僕から少し離れてその様子を暖かな双眸で見ている。僕は動悸を整え、背筋を伸ばす。
「先生、最近困ってませんか?」
沢城さんがハスキーボイスで問う。
「え? いえ、別に困りごとはないですよ」
鹿島さんと美原さんのことはちょっと困ってる、というかどうしたらいいのかわかんなくて迷っている。でも、そんなこと言えるわけもないし。
「そうですかぁ? 私の勘違いかな。私で良ければ何でも相談にのりますから、遠慮なく言ってくださいねぇ。まあ、法律と犯罪は別に専門家がいるけど」
今の案件は、その専門家が絡んでます。
「ありがとうございます。沢城さんはお優しいですね」
僕は世辞でもなくそう言った。
「いやあ、そればっかりでね。おかげで彼女もいないんです」
いつもより自由な前髪を掻き上げる。爽やかな風がその笑顔と共に僕の前を横切った。沢城さんはきっとノンケだ。本当に困ったら相談しようかな。彼を見上げながら、僕はそう思った。
最初のコメントを投稿しよう!