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第6話
その日の教室は、僕だけの感想かもしれないけど、妙にピリピリしていた。鹿島さんと美原さんが同じグループなのは良くないとつくづく思う。
ホタルイカの下ごしらえは、地道な作業だ。一個ずつ小さいイカの目と嘴、軟骨を取るんだけど、大きな手のみんなはとっても辛そう。特に鹿島さんの手は大きくて指も太いので、大変そうだった。
僕はつい手を貸したくなったけど、冷たいオーラを纏っててなかなか手が出せない。対する美原さんは本当に予習してきたのか、サクサクやってる。多分元々器用なんだろうな。
「面倒ですが、これをすることで各段に美味しくなるので、頑張ってください」
そう僕が声をかける。沢城さんも遅れていたのでそっと手を貸した。
「あ、ありがとうございます。先生」
またまた無垢な笑顔を向けてくる。沢城さん、それ、狙ってるんじゃないよね? これで女性にモテないとか、絶対嘘だ。
「先生、これ、うまいこといかんわあ。イカだけに」
松田さんのセリフにみんな笑い出した。親父ギャグにもほどがあるけど、場が和んだから有難い。僕はその空気に乗じて、進まない鹿島さんのイカに手を伸ばした。
「ありがとう。先生」
鹿島さんがお礼を言ってくれた! やっぱり嬉しい。二人並んで黙々と作業をする。その幸せな感覚に溺れてたら、美原さんから突っ込みが。
「予習してきたの、間違いだったかなあ。僕も先生に手伝って欲しかった」
「ふふん。出来の悪い生徒ほど可愛いんだ」
か、鹿島さん、なんてことを。
「美原さんは本当に手が早くて素晴らしいです。しかも出来上がりも綺麗ですよ」
僕は火花を散らしている二人を宥めようと、美原さんを褒める。美原さんが相好を崩したので、事なきを得たかな? 僕が安堵の表情をしているのを、沢城さんが見ていた。思わず、笑みを返した。
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