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その日の夜、錦田君からLINEが来た。
『明日、うち来ませんか?』
(これは、なんとダイレクトなお誘い。)
『この前の写真一緒に見ない?』
『ついでに、編集とかもしてみる?』
(あっ、そうね。そういうことね。でも、家に行くってやっぱりちょっとそのつもり…ってどのつもりよ〜。)
『行きたいんだけど、友達の引っ越し手伝う約束で。』
『そうなの?じゃあ僕も行こうか。男手あったほうが良くない?』
『それは大丈夫だと思う。女手が必要で、呼ばれてるから。細かい片付けね。』
『そっか、じゃあ友達は男?』
『あっ、そりゃあ男友達くらいいるよね。』
『ちょっとヤキモチやいちゃった。』
ペコリっと、スタンプ。
(ふふ、なんかかわいい、素直じゃん。)
『うん、大学の時からの悪友ってやつ。』
『じゃあ、明後日は?』
『あっ、明日また連絡するね。』
「ただいま〜。」
「お帰り。」最後のLINEを急いで送信してしまう。
「遅かったねー。」
「なあ、未華子。お前今付き合ってるやついんの?」
「何、急に。また。」
「いやー、ごめんごめん。確認もせずに、昨日の噓に付き合ってもらったからさ。」「まあ、なんとなく気にはなってたんだけど、実は、この前、カメラの写真見たんだよ。」
「なっ、勝手に?!」
「うーん、だってどんな景色撮ってんのかなーって。」
「もう!」
「で、誰と行ったんだ?彼氏を一枚も撮ってないあたりお前らしいし。でも、誰かがお前を撮ってたろ。」
「彼氏じゃないけど。」
「けど?」
「うーん、告白はされた。」
「マジでー。」
「うん。」
「どんな奴?まさか、バイト先の誰かじゃないよな。」
「えっ、なんで。」
「いや、だってろくなの居ないって感じじゃなかったか。」
「あっ、そんなこと言ったねー、最初の頃。」
「ふーん、ってことは、やっぱりその会社の奴か。」「で、どんな奴?」
「どんな奴って、うーん。思ったより良い子だったっていうか。割と好きなこととかが似てて。」
「子って、年下?」「あっそうか、みんな若いって言ってたよな。えっ、そうだよ、20代ばっかりみたいなこと言ってなかったか?うそだろ。お前自分の歳わかってんの?」
「うるさい。わかってるわよ。」
「で、いくつなのその子は。」
「えっ、あの、25だって。」
「はー、お前さあ、今更そんなガキと遊んでどーすんだよ。」
「何よー、私の勝手でしょ。」
「まあ、いいけど。」「とりあえず、明日は俺の引っ越し手伝う約束だからな!」
「ちゃんと、伝えたわよ。明日は無理って。」
「デートの誘い断ったのか〜。」
(しまった。余計なことを言った)
「彼氏じゃないってことは、返事はしてないの?告白されて。」
「うん、ちゃんとは。」「流石にねー。私だってわかってんだよ。簡単に喜べない年齢だってこと。」
「そうか、まあ、それならいいけど。」「あ、これ、プリン買ったけど、今食べる?後にする?」
「えっ、ああ、今はいいや。」
「そうだな。」
彼は冷蔵庫へプリンを入れるためか、キッチンの方へ行く。未華子は、椅子に座ったまま、錦田君のことを考えていた。
裕二が突然私を後ろから抱きしめてきた。
「やめとけ。まだ始まってないんだろ。」
肩越しに彼はゆっくりと低いトーンで言う。私の顔のすぐ横で、彼の顔と息を感じる。
「未華子。お前のことは俺が守るから。」
「なに?どういうこと?」
こんな状況にすっかり体が固まってしまい、未華子はぴくりともしないまま尋ねる。
未華子は、慌てた。(裕二、今日は酔ってないよね?それは友達として?)
「未華子にとって、俺が男じゃないのは、なんとなくわかってるよ。もし、お前が俺を男としてみれないっていうなら、それでもいーよ。友達として、俺が守ってやるから。そんな年の離れた男と付き合ったりしたら、お前の性格だ。苦しむのはお前自身だよ。」
「裕二。」
「あの、裕二は、私のこと。」「あっ、ううんなんでもない。分かったよ。あ、ありがとね。」
未華子は、自分の体に回された裕二のその腕にそっと手をのせ「ありがと。」と、もう一度言った。
結局、私達はカレーの冷めない距離で行ったり来たりしながら、暮らしている。まさか、裕二の引っ越先が目の前のアパートだったなんて。
私たちは友達です。この関係は微妙なバランスのまま今も楽しくやっている。
ー END ー
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