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「木戸さん。今日はラーメン食って帰りません?」
「なんか、いい店知ってるの?」
「はい。倉庫来るときは大抵行ってんですけど、ここまで結構距離あるじゃないですか?だから、そうしょっちゅう来れないし、来るときは、いっつも、まとめ撮りするし、時間遅くなるんで、とりあえず腹ごしらえするんすよね。で、また、撮影って感じで。でも、今日は木戸さんのおかけげで、早く片付いた。このまま帰るのもアレなんで、ちょっとゆっくりしましょうよ。」
「まあね。お腹も空いたし。賛成。」
「あの海岸沿いです。今なら空いてるかな。」
「いらっしゃいませー。」「おう、いらっしゃい。」
「どうも~。今日は新しい人連れてきました。撮影スタッフで。」
「またかい。」
「まあ、そう言わないで下さいよ。」
「彼女は、とてもできる人なんで。」
「そりゃあ、よかった。こいつが頼りないんでね。なかなか、一緒に仕事してくれる人が続かないって。かみさんとも、いっつも言ってるんですよ。」
と、笑っている。
「へんな紹介やめてくださいよ。」
と、錦田君は困っている。未華子は、軽く頭を下げて、にやっと笑いながら、
「でも、今日初めて撮影現場一緒に来ましたけど、たくさん教えてもらいましたよ。カメラのこと。」
と、フォローしておく。
「そうかい。そりゃ、良かった。」
「ラーメン、今日は、スペシャルで。」
と、錦田くんが、急に
「今日はおごりますんで。」
と言い出した。
年下におごってもらう?そんなのアリなのか?とは思ったが、とりあえず、社員とアルバイトの関係。まあ、ここは素直に、
「ほんとにー!嬉しいな。ありがとう。」
褒めて正解だったかな。
スペシャルなラーメンは、海苔と卵がのっている・・どこがスペシャルなのかは良くわからないが、きっといつも食べるものより、トッピングが多いんだろうな。ありがたく頂戴しよう。
「おいしい。」
「でしょ。」
「魚介のスープが最高ね。」
「そー、大将の顔に似合わずいい味だしてるでしょ。」
「そんなこと言ってー」
「ご馳走さま。大満足です。」
「また来てね。」
「はい。ありがとございました。」
「木戸さん、ちょっと、寄り道していーですか?」
「いいよ。どうせ今から帰ってもねえ。」
「考えてみたら、バイトに時間外労働。駄目ですよね。」
「そうねえー。まあ、移動時間は労働外と考えれば仕方ないか。」
「じゃあ、ここからは、会社の車だけど、プライベートってことで。」
錦田君は、そういうと海岸沿いの脇道へと車を走らせた。
程なくして駐車すると、「降りて少し歩きません?」と言う。
なんとなく、二人で散歩。辺りはもう薄暗くなってきた。
「今日の撮影、楽しかったな。久々。その分明日からまた大変だけど、よろしく頼みますね。」
「了解。」
「木戸さん。僕と付き合ってくれませんか?」
あまりに唐突に言われて、一瞬理解できない。
「えっ、何言ってるの?」
「何って、聞こえませんでした?」
と、顔を近づけてくる。思わず未華子はのけぞった。
「付き合って欲しいっていったんです。」
「あ、あ、あのさあ、錦田君って、いくつ?」
「歳は関係ないってこの前。」
「いや、まあ、そうは言ったけど、私が、何歳かも知らないでしょ」
「僕は、同じ年の子とかには興味ないんです。昔から、年上好きで。」
「いや、そうは言っても。」
「何歳ですか?木戸さん。30過ぎ?そんな上にも見えないけど、僕は25歳です。」
まじか!思ったよりもさらに若い。
「よね、私なんて、34よ。9も上じゃない、しかも今年35になるし。」
「そう。僕も26になるから、9歳差。問題ないじゃん。」
「いやいや、ちょっと待ってよ。」
「それに木戸さん、若く見えるし、僕はどっちかというと、上に見られることが多いし。」
「とにかく、ちょっと待って!」
「なんで?」
「落ち着けー」(って自分かそれは)と、彼を押し戻す。
「落ち着いてるよ。いや、ほんとは、口に出すまではドキドキしてたけど。言ってみたらすっきりした。前から、気になってたんだ。木戸さんのこと。」
「あ、そう。そうなの。あ、それは、まあ、その、ありがと。」
「まあ、いきなり付き合うのは無理なら、とりあえず、こんな感じで、プライベートで会いましょ。まずはそこから。」
「うーん、とにかくちょっと待ってよ。」
こんな積極的なタイプなの?人は見かけによらない。ってゆーか、職場で隠し過ぎなんじゃ?本性わかんないぞ、これは。おばさん、からかわれてる可能性あるよな。振られたばっかりで、寂しいだろうから、なんて。そんなことして、この子に得があるのか?頭はパニック。帰りの車で、どうにか話をそらすことに必死な未華子だった。
「家に送りましょうか?今更会社戻ってもしょうがないでしょ。」
「まあ、そうだけど、でも、それなら、駅でいいよ。」
「いいよ。家まで送るよ。」
(えっ?急に口調変わってない?)
「そー、あっでも駅前で買い物したいからやっぱり駅の方が、いいかなー。」
動揺しているのを悟られまいと、余裕な振りをして応える。
「りょーかい。んじや、東口でいー?」
「あっうん。」
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