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次の日、未華子は流石にお昼近くまで眠っていた。昨晩の出来事、なんか、いろいろなことが、ぐるぐると頭の中で回っていた。実際に眠りにつけたのは、いったい何時頃だったのだろう。明け方が近くになっていた気がする。
(裕二。なんか昨日おかしかったな。家飲みはちょっと危険だわ。)朝ごはんか、昼ごはんかわからないが、とりあえず支度を始めると、しばらくして、裕二が起きてきた。
「あー、おはよー。昨日結構飲んだな。」
「ちょっと、先シャワー。」
そういうと、さっさと風呂場へ消えてしまう。
(ご飯、どうするんだろ。二日酔いで食べないか。)
「あっ、飯食うから、すぐ出てくる。」と、戻ってきて言い、今度こそシャワーへ。
二人向き合っての食事。昨日のことは何もなかったことに。裕二は、食べ終わると、ちょっと出かけると行ってすぐに家を出てしまう。
なんとなく、ぼうっとTVを見ていると、錦田君からLINEが来た。
『仕事の話でごめん。明日、新しいシステムの件でミーティングがあること忘れてた。』
『たぶん、ほとんどの、時間居ないと、思うから、結構作業大変と思う。よろしくお願いします。』
『来週は、週5出勤だし、大丈夫と思うよ。期限までにやれると思う。』
『そっか、そうだったね。良かった!』
『ほっとしたよ。木戸さんが来てくれてほんと助かる。』
夕方、裕二はまた普通に帰って来た。いつまでいるつもりだろ、ほんと。そう思いながら、この日は、早々に眠りに付き、月曜の朝を迎える。錦田君とは、お昼休みに時々屋上でお喋りしている。裕二は、『ちょっと実家へ帰る』と連絡してきて、その夜も、次の夜も、うちには帰ってこなかった。
水曜日のお昼休み。いつもの通り、屋上へ。
「今日もいい天気っすね。」
「ねー。」
「木戸さんのおかけで、随分進みましたね。」
「まーねー。」ちょっと。調子よく応える。
「金曜から、局ちゃん、2週間居ないって聞いた?」
「えっ、そうなの?」
「たまに。あるんっすよ。噂では、社長の、海外出張についてってるんじゃないかって。」
「誰も、局ちゃんと話さないからわからないけどね。何かを皆に言うわけじゃないし、皆も聞くわけじゃないし。」
「居ないのは、なんで知ってるの?」
「一応勤務表あるんす。それ見ればね。」
「局ちゃんがいない時は、実は結構和気あいあいやってるんすよ。同時に社長もいないからね。」
「まあ、ここんとこは、木戸さんが来たおかけで、局ちゃんも大人しいし、そこまで、皆ストレス溜まってないと思うけど。」
「それと、今日、きっと飲み会ありますよ。来てよ。」
「前回は、木戸さんお休みの日だったから、誘えなかったけど。」
「局ちゃんが休みに入る前祝いってやつです。」
「なにそれー。」
「恒例になりつつあるけど、藤野さんが大抵飲み会するぞって!」
結局その日、飲み会へ初参加することになり、裕二へ連絡を入れる。
『今日は、職場の人と飲みに行くことになった。』
『了解。適当に飯食っていい?』
『大丈夫だよ。好きにして。』
飲み会の席で、普段あまり話をすることのない、近藤さんや東さんともいろいろ話が出来て楽しい。なんだみんな結構面白い人たちなんだ。あの藤野さんが、まさかお祭り男だったとは。写真見せてもらったけど、神輿に乗ってすごい気迫。陰気だとか言って悪かったな。人ってみかけによらない。
有田さんは、来ていない。飲み会に誘っても、来た事はないらしい。まあ、確かに、年齢的にちょっと無理なのかもな。アルバイトの木吉さん以外は、全員20代。あっ、間違えた、クレーム担当の東さんは、55歳。木吉さんは、私と同じ30代だが、いつまでもアルバイトってわけにはいかないと。どうやら結婚して子供もいるらしい。他にも倉庫に普段は居る人や配達の人など今までに会ったことのない人たちもいる。集まれば基本愚痴しかないのが会社の飲み会。どこもそんなもんだ。それが一番大いに盛り上がる。今までの経験通りのことが、ここでもまた繰り広げられていた。
「結構飲んだなぁ。」と錦田くんはいいながら、駅へ向かう。2次会でとりあえずは一度解散。私はそのまま帰るといい、みんなにお別れをする。別に大丈夫と言ったが、駅までみんなで歩きましょう~。ということで、私を送ってくれることになった。
ゾロゾロと歩き出し、駅前で、本当にみんなとはお別れ。その間もなんとなく、錦田くんと横並びに歩いていたが、それ程距離は縮まらない。かなり酔っぱらった東さんが、なんだかずっと私に話しかけてくるから、ついつい東さんの相手をしてしまっていたから。
「東さん、飲みすぎですよー。木戸さんに絡んじゃダメです。」
「何も絡んでないよー。ねー。木戸さん、木戸さんは、本当にいい人です。」
駅について、みんなに手を振り見送った。
家に帰ると、裕二は既に眠っているようだ。
今日みたいな日こそ、家に帰ったらいいのに。そんなことを思いながら、酔い覚ましに、お茶を入れる。それ程今日は酔っていない。
錦田君とこれからどうなるんだろうな。そう思いながら、お茶を飲んでいると、裕二が起きてきた。
「お帰り。」
「あっ、ごめん。起こした?」
「別に、気にすんな。」「ちょっとのど乾いた。」「明日外で飯食わないか?」
「えっ、何、急に?」
「いやー、しばらく居候したしさ、お礼も兼ねて、ちょっと豪華ディナーでもご馳走しようかと思ってさ。」
「柄にもないこと言う。」
「じゃあ、もう置いてあげなくていいってことね。」
「うん、たぶん。」
「たぶん、って・・。」
「いや、未華子が寂しくなるわーっていうなら、居てやってもいいけど。」
「言ってないし。」
「そうか。」
「そうよ。」
「いやでも、ほんとに居なくなったら、寂しいかもよ。こんなにラクに一緒にいられる便利な男ってそう居ないでしょ。」
「まあね。」
「土曜日引っ越そうと思って。」
「何?引っ越しっていうほど、荷物ないでしょ。」
「あっ、ここじゃなくて、今住んでるとこだよ。」
「えっ、そうなの?どこに?」
「この前、不動産屋でみつけてきた。いろいろあったしさ。やっぱりあそこに居ない方がいいかなって思って。」
「そっか。」
「割とここの近くに。」
「えっ、なんで?」
「なんとなく?」
「住みやすいし。」
「そうかな?」
「会社遠いじゃん。」
「まあね。」
「とにかく、オヤジにあれこれ言われたくないから、会社からも家からも離れたい。それだけ。」
「ふ〜ん。」
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