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小さな古ぼけた鳥居に、赤い前掛けをしたやけに吊り目な狐の石像。
そこに立つ一人の少年。
瞳を隠す長い前髪に、広角の上がった真っ赤な口元。
“こちらへこい”
そう、こまねく色白の小さな手。
夏葵は一気に流れ込んできた幼い頃の記憶に、強く目蓋を閉じた。
「もう、また思い出しちゃった…」
顳顬を嫌な汗が伝う。
思い出さないようにしても、“夏”を感じるとどうしても思い出してしまう、あの日の記憶。
「だから夏は嫌い」
そんな独り言を呟きながら、ジリジリと焼けるコンクリートの上をひたすら進む。
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