第1章

2/21
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 小さな古ぼけた鳥居に、赤い前掛けをしたやけに吊り目な狐の石像。  そこに立つ一人の少年。  瞳を隠す長い前髪に、広角の上がった真っ赤な口元。  “こちらへこい”  そう、こまねく色白の小さな手。  夏葵は一気に流れ込んできた幼い頃の記憶に、強く目蓋を閉じた。 「もう、また思い出しちゃった…」  顳顬を嫌な汗が伝う。  思い出さないようにしても、“夏”を感じるとどうしても思い出してしまう、あの日の記憶。 「だから夏は嫌い」  そんな独り言を呟きながら、ジリジリと焼けるコンクリートの上をひたすら進む。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!