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第1章
「あっつい!」
思わず心の声が漏れた。
大船に住む市川夏葵は、隣駅である北鎌倉駅から鎌倉方面に向かって県道21号横浜鎌倉線を歩いていた。
寿命を全うすべく、けたたましい鳴き声を響かせるセミに眉を寄せる。
「あぁ、もう夏嫌い!」
目の前に広がる灼熱のコンクリートと、息をするのも辛くなるほどの熱気にそんな声が溢れた。
名前に夏の字が入っているにも関わらず、夏葵はこの季節が嫌いだった。
頭にこだますセミの音、緑と土の混じったような匂い、何処からか聞こえてくる風鈴の音ーー。
それらを感じると嫌でも思い出してしまう記憶がある。
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