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「さすがにワイバーンと違って、随分と高い位置を飛ぶんだな」
ギガノスの翼の間から下の様子を覗き込んで、ムルジムは感心したように言った。上から眺めると、島のように点在する台地の上部は、花畑が存在することは共通するものの地形には様々なバリエーションがあるようだ。ところで、このギガノスは私たちをどこまで連れて行く気なのだろう。
突然、ギガノスが雄叫びを上げた。振り落とされないように羽毛を掴んでいるので耳を抑えられない。至近距離で聞く大音量はなかなかつらい。
何があった? 私たちは顔を顰めながら目配せしあった。
ギガノスは急降下すると、ある台地の縁に舞い降りた。この台地は先程の場所とは違って、ところどころ岩が盛り上がって芭蕉や蘇鉄が生えている。中でも一番大きな岩の近くでギガノスは私たちを下ろした。その間も、ギガノスはある方向を注視して気もそぞろといった感じ。何となく、何が起きているのかを察した私たちにも緊張が走る。私たちが岩陰に身を寄せたのを確認すると、ギガノスは雄叫びを上げながら飛び立っていった。
「……ここは、アイツの縄張りなんだな」
ムルジムは呟いて、ギガノスが飛び立っていった方向を見た。不意に、ドオンという大きな音と共に地面が揺れた。雄叫びが二重に聞こえる。慌てて耳をふさいだ。目の端でムルジムが装備を置いて岩の上に登っていったのを捉え、急いで目で追う。同じく耳を塞いでいたアルが、目を見開いて何かを言ったが、ギガノスの雄叫びにかき消されて聞こえない。私も背負っていた装備を岩陰に押し込んで、ムルジムの傍に駆け上がった。蘇鉄の根元の草叢の間から、遠く、二匹のギガノスが格闘しているのが見えた。遠目なので、どっちがここまで連れてきてくれたあの子なのか分からない。結構離れているようなのに、衝撃がここまで伝わってくる。隣で二匹の格闘を見つめるムルジムの目は、怖いくらいに血走って見開かれていた。あの格闘に、ムルジムは至近で巻き込まれたのだ。また、岩の砕けるような音と振動が来た。そして、空気を震わせる雄叫び。頭上を何かが横切って、ハッと顔を向けると背後で岩が弾けた。格闘で砕けた岩が、ここまで飛んできたのだ。
「ねぇ、ジェマさん」
背後からアルに声を掛けられた。青い光を放つ吸血羽蟲がフワフワと私の身体を取りまく。ここまで飛んでくる間、一旦振り切られるように居なくなったけど、また羽蟲が寄ってきたんだな、と思いつつ振り返ると、ほぼ青い光の固まりみたいな姿になったアルがいて仰天した。羽蟲は私の身体を伝い、反対隣のムルジムの方へもまとわりついていく。
「この下に、パナセイアがたわわに実ってる木があるんです。ボク、木にくっついてるパナセイア、初めて見ました」
ズドォンという音が響き、こちらがたたらを踏むほど地面が揺れた。慌てて草の根元にしがみつく。どっちかのギガノスかが悲壮感の漂う甲高い雄叫びを上げた。
「どうやら決着がついたみたいだな」
頭上をギガノスが飛び去って行った。勝ったのはどっちだったんだろう? 私たちは固唾をのんで目配せしあった。
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