二人のアル

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二人のアル

「はぁ? 報酬額が満額の40%ってどういうことよ?」  駆け出し探索者アルフェッカこと私は、依頼屋から受け取った伝票を見て、カウンターを両拳でドスンと叩き抗議の声を上げた。皮袋に入った報酬金が飛びはねてチャリンと軽い音を立てる。 「マジで分が悪すぎるわ! ここ一月かけて集めた素材を加工して、やっとのことで納品したのよ! それが、これっぽちの報酬になってしまうなんて信じられない! 一体、どういうこと?」   此処は、町一番の『依頼屋』。周辺から集まってくる依頼は種類も難易度レベルも多種多様だ。私みたいな駆け出し探索者には御用達の場所。先日、「森」から大量の薬草を取って来て欲しい、という依頼を受けた。必死こいて採集して乾燥させて依頼数より多めに納品したというのに。  恰幅の良い依頼屋のオヤジは、何言ってるんだコイツ、と言いたげな視線をこちらに呉れて、溜息をついた。 「嬢ちゃんが金をケチってやっすい個人宅配依頼したからでしょうが。大方、手間を省いて同時依頼をこなそうとした未熟モンの宅配人が、積み荷を落っことして破損させたかどうかしたんでしょうけど」 「う……」  確かにケチった。武器新調してお金無かったから。報酬が満額近く入れば武器の残金を支払っても余裕ができたのに、報酬40%だったら自分が食べるために残す分が無い。ヤバい。飢える。「捕らぬナントカの皮算用」ってヤツだ。もうちょっと慎重にを運ぶべきだった。ぐうの音も出なくて茫然とする。 「はいはい。商売の邪魔だ。行った行った!」  オヤジは、シッシと手で追い払う仕草をした。私は、予定よりだいぶ減ってしまった報酬を手に、渋々とカウンターを離れた。  「探索者」とは、町の依頼屋で注文を受けて注文通りの物を収集して納品する職業だ。この、納品したものを注文主に届けるために宅配業者を選ぶのだが、この宅配というのが曲者なのだ。運ぶ物の重さや価値によって、妥当と思われる宅配人を選ぶシステム。ベテランの宅配人ほど手数料が高い。注文主は宅配人から依頼物を受け取って報酬を支払う。宅配人が技量に応じた手数料を得、1割を依頼屋が差っ引く。残りの70%から80%くらいが納品した探索者の取り分となる。依頼主は、納品に破損があったり、注文数に及ばなかったりすると、報酬満額支払わなくて良いことになっている。私が40%の報酬しか得ていないということは、少なくとも今回の納品には半分位しか報酬がもらえなかったってことだ。一体何してくれちゃったんだ。  しばらく、また、道端の草や森の果物で腹を満たさなくてはならない貧乏生活になる。  でっかい溜息をついて、とぼとぼと依頼屋の出入口に向かうと、年のころが同じくらいの男の子とすれ違った。見るとはなしに目で追っていく。男の子はカウンター前に立ち、オヤジを呼ばわった。 「アルシャインです! 納品終わりました」 「!」  私は手元の伝票を見た。  宅配人の名前欄にサインされている「アルシャイン」の文字。  そうか! コイツか! コイツが私の報酬を大幅減額してくれた張本人か!  頭にカッと血が上った。  一言文句言ってやる!  踵を返して男の子の後ろに立つと、トントンと肩を叩いた。 「はい。何でしょ?」  男の子は振り向きざまに強烈なナックルをこめかみにお見舞いしてくれた。完全に油断してた。無防備な頭をゆすられて、視界が真っ暗になった。
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