シェアハウス

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 私は腰の左右に特殊な加工を施した双剣をぶら下げ、背嚢を背負って木賃宿を後にした。ジジイに残りの宿代を支払おうとしたら、アルが支払った、と言われた。そこまで私、頼んだ憶えがないんだけど。 「アル、宿代の件、どういうことなの?」 「ああ。気にしないでください。ボクがあそこを引き払うように言ったのですから、当然です」  にっこり笑うアル。紳士か! でも、ここまでしてもらう理由が見つからない。「借り」として心にとどめておかなくちゃ。 「宿の方々が言っていましたが、ラバーナムって何処なんですか?」 「はい?」  思わぬ質問に面食らう。オッサンたちにも、包みの中身は完全にバレてたんだ。 「チャプレットの中腹にある猫頭族のコミュニティよ」 「え? そんな辺鄙なところに獣人族のコミュニティがあるんですか? どの居住区とも大分離れていますよね」  アルは、意外だ、という顔をしている。  んー、だからこそ、あまり知られていない。 「古いコミュニティなんだけどね」  曖昧な苦笑で返す。 「ジェマさんは、そんな遠いところから来たのですか?」 「うん。そうよ」  キングサリの咲き乱れる故郷。  色んな感情がこみ上げてくるのを慌てて振り払う。気分を変えるためにこちらから質問した。 「アルが案内してくれる新居は、何処にあるの?」 「B 地区です。家賃はさっきのところとあまり変わりません」  あ、そうか……。木賃宿は取りっぱぐれを防ぐために、宿代は交渉制。私に直接聞かずに宿代を知るために、代わりに支払ったってわけだったのね。宿代を聞くことは、こちらの懐具合を晒すことになる。よく知らない相手には、言いにくかろうと察したわけだ。うわー。なんて気遣いの出来るヤツ。何をどう育ったらそういうのになるの?   つか、これでバレたなぁ。お寒い懐具合が……。 「シェアハウスなので、食事は自炊か持ちよりです。余裕がある時は他の住人に振舞い、ピンチの時は頼る。それで上手く回っています。ジェマさんも、最初は甘えてくださってかまわないです。余裕が出来たらその時は還元してください」 「シェアハウス?」  私は首を傾げた。血の繋がらない大家族みたいなものなのかしら?  「お互い様精神は理解できるわ。コミュニティもそうだったし」 「よかった。早々に生活に慣れることが出来そうですね。住人はおいおい紹介していきます」   アルはこちらを向いて微笑んだ。そっか、B地区か……。だったら。 「途中で職人街を通るわよね。ちょっと寄りたいところがあるの。いいかしら?」 「いいですよ」  一体どこへ、とアルの顔に書いてある。 「武器屋さん。これの残金を支払わなきゃ」  私は腰の双剣の柄に触れた。
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