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気が付いたら、依頼屋の二階にある個室の休憩部屋だった。調度品の少ない殺風景な部屋だ。そこの仮眠用の簡易ベッドに転がされている。どうやら頭蓋を揺すられて昏倒したらしい。
「ったぁ……」
右のこめかみをさすって起き上がる。うー、何かまだキモチワルイ。
「すみませんでしたっ!」
いきなり死角から大声を出され、私はびっくりして飛び上がった。横目で声のした方を見ると、こっちに頭頂部のつむじを向けて、誰かが深々とお辞儀をしている。
あー、誰だっけ?
ああ、そうだ、コイツ……。
「ホントよー。後ろから黙って肩を叩いたのも悪かったけど……」
「いや、えっと、……ボク、アルシャインと言います。駆け出しの宅配人で……」
「知ってる」
私はポケットから例の伝票を取り出してヒラヒラさせた。
「私はアルフェッカ。先日のあなたの仕事について文句の一つでも言ってやろうと思って肩を叩いたの」
アルシャインは目を見開いた後、落ち着きなく視線を彷徨わせた。背格好も自分と同じくらいか。黒目がちのクリクリした瞳に、ちょっと癖のある柔らかそうな黒髪。何だコイツ、よく見ると可愛い顔してんな。
「ああ……あー……それ、……ですか」
「何やったらこんなに報酬が下がるのよ。お願いした品は、そんな重いモノでもかさばるモノでもなかったでしょう?」
多少可愛いからって、誤魔化されるもんか。眉間に目いっぱい皺を寄せて睨みつけてやる。アルシャインは申し訳なさそうに肩をすぼめた。
「いやー、すみません。その時はタイムリミット有りの荷物も抱えてて、急いでいたもので、積み荷を崩してしまって……水たまりへ、ドボン………」
「水たまりへ落としたの? 『水濡れ厳禁』ってタグ付けてたでしょ?」
今度はこっちが目を見開いた。
なんてことだ! 中身は乾燥させた薬草だ! 下手すりゃ納品不備の不達扱いにされて無報酬だったかもしれない。
「申し訳ないと思って、こちらで乾燥させて配達したんですが、やっぱし、そのー……素人仕事だったもので満足していただけなくて……」
「ぐぬぬ……」
無報酬だったところを40%なら、まだ頑張った方、なのか? こっちだって駆け出しな訳だし、慣れないうちは不備だってあるだろう。体を縮こまらしてペコペコ頭を下げているのを見ているうちに、責める気持ちもだんだん萎えてきた。
「……んー。解った。今回は勘弁してあげる」
「あっ、ありがとうございます」
「ただし、条件があります!」
「はいっ?」
アルシャインは、くいっと顔を上げた。
「次の報酬を受け取るまで、私のご飯の面倒を見てください」
私の要求の切迫具合を訴えるかのように、お腹の虫が盛大に鳴り響いた。
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