二人のアル

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 この街の名は『ジャカランダ』。春になると一面の紫の花に覆われる。山岳部の『ファウンテン』、海辺近い『フラムボイアント』と並んで、この島『フロース島』の三大居住区だ。島には原住民として獣人族がいて、三大居住区以外にも小規模の集落を構えて島内のあちこちににコミュニティを作っている。全体に温暖で、水源も豊かなこの島には、巨大爬虫類と昆虫類が生息している。島中央部のやや北東寄りに休火山であるチャプレットがある。居住区から離れた位置にあるこの山の頂には雪が降る。雪解けの頃、溶けかけの雪が頂近くに冠のように残るから先祖たちはこの山を花冠(チャプレット)と名付けた。優美な裾野を広げたこの山は、島のどこからでも姿を拝むことができる。  依頼屋を出た私たちは、街中央広場へと向かった。市場と飲食店の立ち並ぶ地区だ。 「んーと、アルフェッカ……さん?」 「はい?」  私は耳を立ててアルシャインの声に注意を払った。街の人混みの中では他の沢山の音も耳に入る。なんだか困惑している気配。何に困ってるんだろう? 「ボク、仲間内とかで『アル』って呼ばれてるんですけど、アルフェッカさんのこと、なんてお呼びすればいいですかね」 「あ! ホントだ。私たち、どっちも『アル』なんだわ」  そりゃあ、まぁ、互いを呼び合うときに困るわね。私は顎に手を当てて、思案した。んー、どうしようか。 「……ジェマで」 「え?」 「小さい時、両親から呼ばれてた愛称なの。『ジェマ』って呼んでもらえる?」  私の申し出に、アルシャインはニコッと笑った。  「了解です。『宝石(ジェマ)』さん」 「じゃぁ、アルシャインのことは『アル』でいいわね」 「で、早速ですが、ジェマさんは、何が食べたいですか? ……高価な物は御馳走できませんが」  予防線を張っているところが何ともはや……。私と同年代で駆け出しとくれば、生活レベルなんてたかが知れている。いくらこちらが損害を被った被害者だからと言って、そこまで厚かましくも図々しくもない。そもそもペナルティや嫌がらせのためにご飯をたかっている訳ではないのだから。所謂(いわゆる)これは、「共助」ってやつだ。困った時はお互い様でしょ? って感覚だったんだけどな。アルはそうは思ってなかったのか。
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