二人のアル

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 アルが案内してくれた「ラスタバンの店」というのは、市場から道一本それた、裏路地にある熊頭の獣人族が経営する居酒屋兼食堂みたいな店だった。 「へぇー……、こんなお店があるの、知らなかった」  と、いうか、普段自炊なので外食なんてほとんどしたことがない。まだ、お酒飲めないし。店に入る前から香ばしい良い薫りが漂っていて、先程から、限界近い私の腹の虫が恥ずかしい程に泣き声を上げている。私を連れているアルも相当気まずいだろうに。申し訳なくって、お腹を抱えて蹲るように店内の席についた。 「おや、アルが女の子連れてくるなんて珍しいなぁ」  見上げるような熊男が、水の入った錫のカップを持ってやってきた。挨拶ついでに、アルが私を紹介した。 「こんにちは。ラスタバンさん。こちらは、ジェマさん。先程、ボクが賊と間違えて昏倒させちゃったので、お詫びに美味しいご飯を御馳走しようと連れてきたんです」 「おやおや。アルのナックルくらったのかい。お気の毒にな。オレ自慢のブレッドフルーツ料理で留飲を納めてくれや」  いや、怒ってるわけじゃないんだけど、と矢鱈と愛想のいい熊男を見上げる。アルはメニューを指しながら、あれこれ注文していた。ラスタバンが厨房に引っ込むと、アルは私の方を見た。 「ジェマさんって、どこに住んでるんですか?」 「D地区の木賃宿に」  素直に答えた私に、アルは目を剥いた。  え? どした? アルの反応に私はビックリした。 「女の子なのに? 木賃宿? なんでそんなとこにいるんですか?」  なんでって言われても……。 「だって、私、まだ駆け出しの探索者だから。市街地に部屋借りて家賃を払えるような身分じゃないんだもの」 「だからって、住居区分外れのD地区みたいな治安のあまり良くないところに、女の子一人なんて! ご両親は一体どうしてらっしゃるんですか?」 「えー、あー、私、最近コミュニティから出て独り立ちしたとこだから……」  私は冷汗をかきながら明後日の方を見た。アルは何故だか鼻息荒く憤慨している。 「そんな地区に女の子一人なんて心配です。ボクの知り合いに便宜を図りますから、今いるところを引き払ってください」 「ええ……」  そんな危険なところ、とも思えなかったけどなぁ。周辺の住民はというと酔っぱらいとか流れ者崩れとか、まぁ……確かに、身なりのいい人は居なかった。
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