二人のアル

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 お腹が満たされてから、アルは私が宿を引き払うのにくっ付いてきた。D地区に一人で帰すのは心配、とか何とか言って。なんとまぁ、ご丁寧だこと。 ところで…… 「ごめんなさいね。支払い、大丈夫だった?」 「全然平気ですよ。さっき依頼屋から手数料もらったとこだったし」  アルはにっこり笑って答えた。料理が目の前にくるまではお行儀よくしていたんだけれど、湯気の立ったほっかほかのブレッドフルーツのマッシュ見たら理性が飛んじゃったのよね。なんせ5日間くらいまともなご飯を食べてなかったのだもの。ブレッドフルーツって、めっちゃカロリー高いんだけど、そんなことお構いなしにモリモリかきこんじゃって、気が付いた時にはラスタバンが満面の笑みで大皿抱えて待機してた。 2af60d81-6e90-4cbe-9ed3-2ea362e4a5e6 「このお嬢さんの食いっぷりは気持ちいいねぇ! ほれ、揚げスナックはサービスしてやるから、たんと食べると良い!」  揚げたてでジュージューいってるスナック! 此処は天国かっ? 目がキラキラしちゃったわよ、ホントに。でも、……次からは抑えよう。他人に食べさせてもらっている身分なのに、「大飯ぐらい」の印象がつくのは良くない。  そうこうしているうちに、D地区に入ってきた。建物の印象が、いささかメンテナンスが行き届いてない感じになってくる。あんまり景観に配慮してない雰囲気。古びた感じを誤魔化すかのように、あちこちに派手なグラフティが描き散らしてある。これはこれで味がある、と思う。路地のあちこちでヒマそうに座り込んでる住人が、物珍しそうにこちらを眺めている。ちょっとばかりワイルドな格好をした子どもたちが、木の実の殻を貼り合わせたボールを投げ合って遊んでいるのが目に入る。隣を歩くアルを見ると、落ち着かなげにキョロキョロしていた。そんなに警戒しなくてもいいじゃない。  私が泊まっている木賃宿の建物に入った。年季はいっているが建付けはまあまあ、といったところ。他より幾分か小ぎれいだったから選んだ宿だ。あと、隅っこの部屋が空いていたってところもポイント。いつもは一階の小部屋にいる管理のジジイが居ない。あれ? と思って、きしむ階段を踏みしめて二階に上がる。 「おう、嬢ちゃん、やっと帰って来たかい」  上階の外廊下に、管理のジジイ以外にも見知ったメンツが揃っていた。このフロアに宿を取っていたメンツだ。皆一様に渋い顔をしている。  嫌な予感がする。 「え? どうしたの?」 「やられた。泥棒だ」  ジジイが、吐き捨てるように言った。 「!」
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