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ギガノスが眠っている間、三人で周辺の探索をした。台地の崖に巣を設けている小中の翼竜種も調べた。巣材に芭蕉とタバコを使うのは、どうやらここら辺の小中の翼竜種に倣ったものかもしれないという仮説が立った。他のギガノスの巣を見ないと、何とも言えないけど。
「そうだな。他のギガノスの巣を見なければ最終的な結論は出せないが、なんか、見えてきた気がするぜ」
谷底から戻ってきたムルジムも私と同意見みたいだった。
「下にいる蜜蟲は、嬢ちゃんの読み通り芭蕉の花の蜜を集めてるらしい。ここまで来れば、避役も餌があるんだが、ファウンテン周辺に居た奴がラバーナムに上がっちまったんだろうな。下にも棕櫚がたくさん生えている。実際、小型翼竜種の中には棕櫚を使っているのもいた。多分、経験上巣材にタバコを混ぜてたかどうかがダニ繁殖に関係していたのだろう。あと、これ、嬢ちゃんなんだかわかるか?」
ムルジムが取り出した房状に連なる白い花を見て、私は目を見開いた。
「それ、月桃です。それも蜜蟲が寄る花ですよ。確か、葉には虫よけ効果のある成分が含まれてたはずです」
「ふむ。小型翼竜種が巣材にしていたのはそのためか。爽やかないい香りがするな」
ラバーナムではその葉で餅をくるんで粽を作っていた。懐かしいな……。薫りの記憶というのは、実に鮮明だ。目の奥がジワリと温かくなった。
ムルジムと連れ立ってギガノスのところまで戻ると、アルが眠っているギガノスの頭のところに佇んでいた。
「ただいまー。なんかあったの?」
アルに聞くと、アルは手にしていた何かをこちらに差し出した。
「真ん中の角にキラキラ光るものが付いてたので、何だろうと思って取ってみたんです。そうしたら……」
アルの手に乗っていたのは、旅人が使う識別札だった。そっと手を出して受け取る。金属のそれに刻まれていた言葉は……
(アルシャインのお兄ちゃん ビハム)
「アルの母ちゃん、コイツのこと、名前まで付けて可愛がってたんだな」
ムルジムの言葉に、アルはこっくりと頷いた。
「シャムは死んじゃったし、父さんも母さんも、もうこの世にはいないけれど……」
拳でぐっと涙をこすり上げる。
「ボクには、お兄ちゃんが、……いたんだなって」
「通りでアルに懐くわけだ。お前の母親が、赤ん坊のお前を紹介してたのかもしれんな」
アルは小さく何度も頷いた。このギガノスはシュルマにとって単なる研究対象以上の存在だったというわけだ。もしかすると、シュルマが翼竜種を研究する切っ掛けになった個体だったのかも……。
アルは、識別札をそっと「ビハム」の角に戻した。
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