二人のアル

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 私の背中に冷たい汗が流れた。明日の飯にも困る貧乏暮らしだ。部屋に金目のモノなんてない。新調した武器と、家から持ってきたモノ以外は。アレを盗られてはたまらない。  慌てて自室に駆け込む。シーツをはがされて荒らされた寝台と、中身をぶちまけられた背嚢が目に入った。慌てて天井を見上げる。羽目板は……ずれてない?  ひっくり返ったテーブルを起こして上り、急いで天井の羽目板を外して中を探った。指先に触れた硬い感触にホッとする。袋ごとつかんで引きずりだした。いつの間にか、足元にアルが立っていた。 「ジェマさん、それ……」  厚手の皮袋から飛び出したものを見て、アルは息をのんでいる。言ったじゃないの。こっちは探索者だもの。森に入るのに身を守る得物は必要不可欠。 「ついこないだ新調したヤツ。よかった、無事で」  それと……。もう一度天井裏を探る。指に触れる布の感触。よかった。これも無事だ。つかんて引き寄せようとしたら抵抗感があった。  え? ちょっと待った。  横目で自室の戸口を見る。怪訝そうな顔でこちらを見ているジジイと、同フロアの面々が目に入る。天井裏に差し込んだ右手はそのままに、左腕に抱えた皮袋を体に沿わせてそっと下ろす。ジジイに目配せして、空いた左手で天井を差し、口の形で「いる」と伝えた。ジジイは目を見開いて、左右のメンツと目配せする。いつもなら酔っぱらって腑抜けた顔をしている兄ちゃんと、いつ風呂に入ったんだか解らんオッサンは、顔を引き締めて頷き、引っ込んだ。剣呑な空気を察してソワソワしているアルに、小声でお願いする。 「これ、床に下ろすの手伝ってくれる?」  脚の間に挟んでいる皮袋を指す。 「あ、うん」  アルがテーブルの下に袋を下ろす。これで足が自由に使えるようになった。右手に力を込めた。これを、奪われてなるものか。天井裏から声がした。隣の部屋の酔っぱらい兄ちゃんが自室から屋根裏に入ったんだ。  よし!  左手も羽目板の桟にかけると、両腕に力を込めて、トンっと跳ね上がって身をかがめる。羽目板の隙間から身体がふわりと天井裏に上がった。自然と、天井裏で布袋の端をつかんでいた賊と面と向かい合う形になる。両足を細い桟に踏ん張って着地すると同時に、爪を出した左手でビンタをかましてやる。ひるんだところを、後ろから兄ちゃんがとびかかって抑え込んだ。 「あ、ばかっ! 勢いつけすぎだって!」  私が悲鳴を上げるのと、天井の羽目板が割れて賊と兄ちゃんが落下するのが同時だった。もうもうとホコリが舞い上がり、慌てて目鼻を覆う。 「大丈夫ですかー?」  下から、咳込みながらもこちらを案じるアルの声がする。 「こっちは、大丈夫よー」  右手に掴んだ包みは無事だった。安心して抱え込む。舞い上がったホコリの間から、伸びた賊の上に寝転がった兄ちゃんがピースサインをしているのが見えた。
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