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翌日、私はムルジムと二人で他のギガノスの巣を探索することにした。一緒に連れてったらきっと探索先の個体と大喧嘩になってしまうので、ビハムには途中まで送ってもらって後はアルとお留守番。アルには宿題として、あの台地にある蜜蟲の巣を探してもらうことにした。その数で、吸血羽蟲が何年くらいあそこに居るのかが推察できる。古い巣の周りにパナセイアが放置されているなら、それが一番新しい古巣ということになる。ビハムが食べつくしていなければ。
「ベネトが探していた笛って、アルが見つけたアレのことなんでしょうかね」
台地の崖を登っていく。ここの台地は蘇鉄が中心の植生だ。
「可能性が高いな。でも、笛があったとしてもビハムはアルのいうことしか聞かないから、呼び出す以上のことは出来ないはずだが」
帰路のための『呼ぶ』笛を、今はムルジムが持っている。呼び出してもアルとセットで来るから、ちゃんと連れて帰ってもらえる。
「……呼び出すことが目的なのかも」
「ほう。どういう考えだ?」
「ファウンテン側も、ジャカランダとの輸送路が細くなっていることに困っているはずですよね。『邪魔なものは消す』って考えなんじゃないかと」
「……嬢ちゃん、怖いこと考えるな」
「だって、もし、その笛を『ギガノスを呼び出すモノ』と認識しているのだとすれば、それしか考えられませんよ?」
輸送路を縄張りにしているギガノスを呼び出して駆除する。相手が一匹なら、こちらが周到に準備をしていれば、駆除は可能とファウンテン側が思っているのだとしたら。
「んーまぁ、ネズミを完膚なきまでに駆除したファウンテンのヤツラならやりそうなことだな」
イタチごっこは目に見えているのに。問題はそこではないのに。
「これは、あくまで私の推理なんですが、あの笛が一番近い台地の巣に隠してあったってことは、ビハムの最初の巣はあそこで、縄張りにはファウンテンのアルの家まで入っていたんじゃなんでしょうか。ベネトが笛の存在を知っていたってことは、少なくともシュルマがヒトに目撃されるようなところで笛を使っていたんだと思うんです」
「ふむ。縄張りの中だったら、笛で呼び出せただろうしな。女の細腕で調査ごとに何日もかけて移動してたと考えるより、ビハムを呼びだして都度都度運んでもらっていた、と考えた方が現実的だな」
「ファウンテン近くで目撃されていたが故に、ビハムが輸送路のギガノスと混同されている可能性があります」
「それは、あるかもな」
「だから、巣材がダニの付いた棕櫚だった……」
「そうか、それで、巣を放棄せざるを得ない羽目になった。なるほど、いい線をついた仮説じゃないか。ただ、ビハムが最初の巣を失ったことが全ての切っ掛けとは思えないんだなぁ」
台地の頂上に着いた。ここにも広がる花畑。そして、あちこちに蘇鉄の株。地図によると、ほぼ中央に巣があるはずだが……。ムルジムと虱潰しに小一時間歩き回ったが、巣は見つからなかった。ここには巣の痕跡すらない。かなり前に巣が放棄されたのだろう。
「ふむ。これで、ビハムが最初の巣を失ったことが全ての切っ掛けではないという可能性が出てきたな。まだ、3か所しか見てないが、内2ヶ所が空とは、ヒドイ成績だ」
「あの、ビハムに尻尾をちぎられた子、何処の子なんでしょうか……」
シュルマが観察していたギガノスの巣は後2か所。どちらも無事だといいのだけど。
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