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ヒトの声がして三人三様に芭蕉の陰に身を隠した。成人男子が二人。草叢をかき分けてこちらに向かってくる。目の前を通り過ぎた姿を見るに、どうやらファウンテンのハンターらしい。交替がどうの、最近暇だのと、互いに話している。
近くにいたアルと目配せして、そっと伸びあがってハンターの姿を目で追う。岩山の陰に入り上に登っていったようだ。交替、ということはまた二人組が下りてくるかもしれない。再び合流したムルジムは、舌打ちして岩崖の上を見た。
「どおりで……ギガノスが縄張りにしてる割には獣道がないから変だと思ったんだ。ここに住まっているのであれば、あの図体だ、はっきりそれとわかる巡回路があるはずなのに」
先程からムルジムが首をひねっていたのは、ギガノスの縄張り巡回路がはっきりしないことに違和感を憶えていたからなんだ。
これで、解った。ギガノスは、あの生息圏に戻れないのではなく、単に個体数を減らしていたのだということが……。
「『最近暇』だってよ。そらそうさ。こっちに来るほど、もうギガノスがいないんだからな。バカだな、あいつら」
ムルジムの呟きにアルが首を傾げた。
「ファウンテンが強硬手段に出たってことは、ジャカランダよりファウンテンの方が輸送路が閉鎖されたことによるダメージが大きかったってことですよね? でも、そういう話、聞いたことないんですけど……」
「ま、ジャカランダは『売る方』だからな。旨い話は広めたがらないもんさ。一部の商人が情報を抱えているか、ファウンテンの議会が漏らさないように緘口令をしいているか」
「にしても、あの大きなギガノスをどうやって駆逐したんでしょう」
「巣が分かればな。寝込みを一斉に襲ったんだろうさ。いくらデカくても無防備なところを多人数で抑え込まれたら、いかなギガノスとてひとたまりもなかったろう」
あれだけ地湧金蓮が咲き乱れて蜜蟲が飛び交うほどにここら辺は環境的に申し分ないのだ。ギガノスには魅力的な土地に映ったのだろう。例え、ヒトの生活に近かったとしても。
そうこうしているうちに、岩崖のうえから交替したハンターが下りてきた。ムルジムは私たちに隠れているようにジェスチャーすると、一人でハンターたちに近付いていった。突然現れたムルジムに、ハンターたちは一瞬たじろいだが、相手が丸腰とみるや互いに目配せして余裕のある表情を取り戻した。
「なんだ? 探索者か?」
「ああ。ここは……一体なんだ?」
ムルジムが上を指す。
「知らねぇってことは、てめぇ、ファウンテンの者じゃないな」
「そうだ。ジャカランダから来た」
「じゃぁ、おめぇさんには関係ねぇ話だ」
ハンターらは鼻で笑うと、ムルジムとすれ違おうとした。
「まるきり無関係とも言えねぇぜ? 俺は黒猫旅団の関係者だ」
ハンターたちは目を見開いた。
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