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代償と取引
ファウンテンに残っていた調査団が警邏部隊に連れていかれたと聞き、不安と心配でソワソワと浮足立つ私とアルに、ムルジムは落ち着きを払って、大丈夫だ、と笑ってみせた。
「情報屋の連中はプロだ。ただ、おめおめとしょっ引かれたわけではあるまい」
ファウンテンに戻ってすぐ、宿屋へ行くより先に町の診療所へ向かった。診察室には普通にワズンが居て、私とアルは拍子抜けした。
「おお、戻ったか。その顔では良い収穫があったようだな」
ワズンは白い眉を上下させて私たちの帰還を喜んだ。真っ白な髭と相まって相変わらず表情はよくわからない。
「調査団が警邏部隊に連れていかれたって話を聞いたのですが……?」
声を潜めて聞くと、ワズンは大きく頷いた。
「フルドとメイサが、議会の懐に入ると言ってな、わざと捕まった」
「え? じゃあ……」
「カフとニハルは、念のため宿を移している。あっちもこちらの人数を把握しているはずなんだがな。今のところ、カフとニハルの行動を見て捕まえるほどの理由を見つけられないのだろう。表向きは旧友を尋ねたり、恩師に会いに行ったりしているようにしか見えんからな。儂は、ほれ、医者だからの。ここの町医者の口添えもあって診療を続けておる」
一緒にワズンの話を聞いていたムルジムは、含み笑いをしながら、アイツら一体何やったんだ? と呟いた。
「んん? フルドとメイサか? 酒場で探索者どもに絡んだんだ」
「ふむ。ファウンテンの探索者を酔わせて、直接内情を探ろうとしたんだな」
「儂も一応見張られておるからの、ここを出たら、お前さんらも警邏部隊から事情をきかれるだろう」
ワズンの言葉に、ムルジムは、ふと天井を見上げて思案した。
「解った。俺が先に出る。ワズンは、坊ちゃん嬢ちゃんたちを頼む」
「え? ムルジムさん……」
アルが不安そうな顔でムルジムを見る。
「お前らまで臭い飯を喰うことは無い。心配すんな。俺らは何も罪に問われることはしちゃいない。直ぐに帰ってくるさ。それに、お前たちと話がしたかったら面倒くさいことはせずにベネトが出張るだろう」
じゃな、と、ムルジムは手を上げると診療所を出て行き、その晩、帰ってこなかった。
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