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「絵にかいたような『老害』っつーのは、あーゆーのを言うんだろうな」
私たちの元に戻ってきたムルジムは開口一番にそう言った。ファウンテンの議会のことを言っている。
「自分たちがここを切り開いて築いてきたという自負があるんだろうがよ。見たいものしか見ないし聞きたいものしか聞かないっつのは、どうかと思うぜ。根気がねぇと開拓なんてできねぇのも解るけど、柔軟性ちゅうもんがない。ワズンの爪の垢でも煎じて飲ましてやりたいぜ」
市場に並んでいた森林バイソンの肉を食べたワズンは、これは旨い! と気に入り、どうにかしてジャカランダでも食べられないかと言い出した。調査の合間を見て、カフとニハルにファウンテンの知り合いをあたってもらい飼育方法や農園運営のノウハウを収集させた。
「ま、季節の変わり目にはアルがパナセイアの世話になることもあるかもしれないからな。パウロで旅団を組むより森林バイソンに切り替えるかって話もあったことだし、渡りに船ってやつだな」
「ワズンさんて、あのご高齢で歯が全部残ってるってすごいですよね。普通、あの御歳で肉なんて噛み切れないですよ」
アルが呆れて言うと、ムルジムは口に人差し指を当てて声を潜めた。
「爺さん、どう見たって爺さんなのに、ジジイ扱いするとめっちゃキレるぞ。『健啖家ナンデスネー』くらいでお茶を濁しとけ」
えー? と、アルは鼻白んだ。まぁ、それくらい元気じゃないと医者なんて体力が持たないんだろうな、と思う。フルドは今後の環境改善の方針について話し合うための助言者として議会に残ってるし、メイサはカフと森林バイソンの農場へ行ってしまった。ニハルは一人、宿の部屋の隅っこでシュルマの資料とにらめっこしている。
「ジェマさん!」
そのニハルに、急に声を掛けられて私はビクッと反応した。
「なん……ですか?」
「ファウンテンとジャカランダの輸送路問題が解決したら、次はラバーナムですね」
「え……?」
にっこりして振り返ったニハルに、私は目をパチクリさせる。
「そうだな。んなことだったら、愛刀も担いでくるんだったな」
ムルジムが呟く。アルがこちらを見て微笑んだ。
「ビハムに乗っけて行ってもらえば、ジャカランダなんてひとっ飛びですよ。取りに行きますか? ムルジムさん。ジェマさんの双剣も一緒に」
「ええ? この後、避役狩りにラバーナムへ行くんですか?」
これは急展開すぎやしませんか? 私まだ、プルスを倒しただけのなんちゃってハンターですよ?
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