代償と取引

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 翌朝、装備を固めたムルジムと私は、ファウンテンの外れで他の調査団のメンバーから見送りを受けていた。久しぶりに、腰回りに来る重み。無意識に双剣の柄に手を掛けていた。大太刀を背負った姿も頼もしいムルジムは、アルに向かって言った。 「助っ人が欲しい時は信号弾を打ち上げる。それを合図にラバーナムに来て欲しい。なにせ避役の襲撃は一年近く前ってことだから、状況が解らん」 「解りました。その時はビハムに乗って乗り込みます!」  アルは真剣そのものでムルジムの言葉に頷いた。  避役の群れが、存分に暴れた後でラバーナムを去っていれば良し。周辺に居座っていれば、狩りの開始となる。前者ならよいのだけれど……。 「ジェマさん」 「……あ、はい?」  アルに声を掛けられて、私は慌てて顔を上げた。 「避役の問題が解決したら、ラバーナムに戻っちゃうんですか?」  目の前に、眉をハの字にしたアルの顔があった。  あー、いや、それはー……。 「アルの旅団が再結成するんだったら、前も言った通り、ハンターとして雇ってもらいたい気持ちはあるよ」 「ホントですね?」  アルは私の手をギュッと握った。うん。まぁ、本心ではあのコミュニティを出たい。強いハンターに成って避役をやっつけたら、またコミュニティを出るつもりでいたし、出た先が決まっているのなら言うことは無い。その気持ちが揺れるのは、故郷の近くまで来てなんとなく里心がついた所為だろうか。 「じゃあ、約束ですよ! 良い結果になることを祈りましょう」  アルの笑顔に、私は頷いた。調査団のメンツの励ましを背に、ムルジムと私はラバーナムへの路に足を踏み出した。  小一時間もすると火焔木がまばらになり、ファウンテンの気配が大分遠くなった。次第に森が深くなっていく。消えかけた路をたどる私の後ろを、ムルジムが付いてくる。以前にも増して、コミュニティと外との交流が減っているのを感じた。ジャカランダの森より空気が乾燥している。ギガノスの巣があった台地ともまた違った雰囲気だ。私としては、懐かしい気配……。 「あの、……ムルジムさん」  歩きながら後ろに声を掛ける。 「ン? なんだ?」  安心感をもたらす、低く落ち着いた声色。 「私が……ラバーナムでどんな扱いを受けていても、ビックリしないでくださいね」  背後で息をのむ気配。 「なんだそれ? 半獣人だからか?」 「いや、そうでなくて……」  説明しようと思ったけど、止めた。コミュニティに着けば解ることだ。   
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