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「ったく、油断も隙もあったもんじゃねぇなあ」
向かいの部屋に逗留しているオッサンが賊を縛り上げて床に転がした。懐を漁ると、兄ちゃんの部屋から盗ったらしい包みと、オッサンの部屋から持ち出した財布が出てきた。
「嬢ちゃんもアカンよ。ダミーは置いとかなくちゃ。何も無いと家探しされて肝心なものを奪われる」
「ダミーを準備しておく余裕もないんだもん。しょうがないじゃない」
私は頬をふくらませてオッサンに恨みがましい目を向けてやる。オッサンの名はサルガス。隣の兄ちゃんの名はシャウラというらしい。初めて知った。つか、今まで興味なかったから聞いてなかった。それにしても、オッサン、くっさいよ。
「兄ちゃんの包みはなんだ?」
「あん? 俺のはただの煙草だ」
シャウラは賊が腰に下げていた袋の中を検めながら言った。
「お嬢ちゃんのは?」
「あ、……えと。香草」
「ふむ……」
サルガスは腕を組んで唸った。アルは部屋の隅っこで固唾をのんで立ち尽くしたままだ。
「奴さん、ただの泥棒じゃなさそうだな」
シャウラが溜息をついて立ち上がった。
「で、この坊ちゃんは何者だ?」
親指を立ててアルを指す。
「あー……」
「宅配人のアルシャインです。アルフェッカさんにご迷惑をおかけしたので、お詫びに色々と便宜を図らせていただこうとこちらにご一緒させていただいたのです」
私が説明するより先に、アルが簡潔に話してくれた。ありがたい。
「そりゃぁ、渡りに船ってヤツだな。嬢ちゃんはここにいない方がいいかもしれん。その坊ちゃんに頼んで、もっと市中のセキュリティがいいとこに行っておくべきだ」
オッサンことサルガスの言葉に私は目を丸くした。市中のセキュリティがいいとこなんて、喩えアルに便宜を図ってもらったとしても家賃が払えない。アルの知り合いとやらがどんな部屋を持っているのか知らないが、アルの生活レベルからして精々ここに毛の生えた程度の物件を紹介してくれるもんだと思ってたから……。
「多分、俺らがダミーだな」
シャウラが私を見下ろした。は? どういうこと?
「賊の狙いは、あんたのブツだ。だから、逃げる機会を逸してもソイツを握ってチャンスをうかがってた」
「えー……」
私は手にしている朱の包みをギュッと抱き込んだ。
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