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「そういや、猫頭獣人族のコミュニティって、基本女系だったな」
ダビーを先頭に砦への路を行く。周りを飛び交う兵隊蜂に辟易しながら、ムルジムは私に話しかけた。度々目が泳ぐのは、刺激しないようにと気を遣っているからに違いなかった。そこまでビビらなくてもいいのに。
「まさか、嬢ちゃんがここのコミュニティの跡取りだとは思わんかったぜ」
「長子なだけで跡取りと決まった訳じゃないもん」
私は頬をふくらませた。ラバーナムの環境が嫌いなわけではないけれど、一族を束ねたりするのは面倒くさい。猫頭獣人族の気質中「気まま」な部分が私は強いんだと思う。というのは言い訳で、母のように皆を納得させられる容姿を備えているわけではないから。猫頭獣人族はムルジムの言うとおり、女系で束ねられる。健康で魅力的で力の強い女性が一族の長となる。
「嬢ちゃん、何人兄弟なんだ?」
「えーと、5人。1,2,2で、下の兄弟はそれぞれ父親が違うんです」
「は? お前の母ちゃん、今3人目のパートナーと付き合ってるってことか?」
「こんな狭いコミュニティだと血が濃くなっちゃうからなんですよ。一番下の妹は私がコミュニティを出るちょっと前に生まれてるからそろそろ歩けるようになってる頃かなぁ」
「はぁー? 猫頭獣人族のコミュニティは解らん。そんなに父親が沢山いて家庭内はどんな空気なんだよ」
「案外平和ですよ。でも、自分が家族を成すとなると、パートナーは一人で充分です。私は母ほど女性として魅力的でも包容力があるわけでも無いし、センシティブな人間関係を維持できるほど神経が細やかでもないので……」
私が溜息をつくと、前を行くダビーが声を立てて笑った。
「若頭は、同世代の者の中で蟲使いの知識と技が抜きんでておりますからな。いきおい、次期『族長』にという周囲の期待が高まらざるを得ないわけで。容姿に関してはまだまだ子ども。いずれは母君似の気も現れましょう。ただし、ヒトには向き不向きというものがあるもの。兄弟が多ければ誰かしら独立志向の強いものが出ますよ。案ずることはありませぬ。そこは母君も心得ておられるようにございます」
「ダビー……」
「まぁ、砦での籠城生活もいささが限界が来ておることは事実。そろそろ決着をつけねばならぬ時と、我々も思案を始めたところ。そこへ若頭が助太刀を携えて戻ってこられたことは、なかなかに幸先のよい兆しと心得ます」
急な崖路を登り終え、目の前に丸太を組上げた壁と、枝を編み込んだ扉が現れた。
「ダビーだ! 若頭がお戻りになったぞ!」
ダビーが声を張り上げると、ゆっくりと扉が内に開いた。ああ、懐かしい薫りがする。ラバーナムに帰ってきたんだ。鼻の奥がツンとした。
「アルフェッカ様だ!」
「アルフェッカ様が戻られたぞ!」
中に入ると懐かしい面々に取り囲まれた。一年前に別れた顔ぶれは、変わりばえ無いようでホッとした。皆に手を握られ、肩を抱かれ、息災であることを確認される。
「確かにすごい扱いだな」
ムルジムが後ろでぼやいた。我が一族ながら、スキンシップが濃くて申し訳ない。
どうにか開放されて、砦奥の母の元へ行く。途中、武器庫と思われる小屋の前で、ハンターたちが弓を張りなおしたり閃光弾を作ったりしているのが目に入った。ムルジムは興味深そうに眺めている。
「ほう。ラバーナムのハンターは遠距離職が多いんだな」
「普段は近接戦は兵隊蜂が担うので、こちらは相手を足止め出来ればいいんです。でも、相手が避役の場合、兵隊蜂を喰ってしまう」
「なるほどね」
ムルジムは顎に手をやって、口元をゆがめた。
「避役を撃退するには、我々が蜂になれということか」
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