代償と取引

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 母との再会を済ませ、私はムルジムと二間続きの空き部屋に通された。装備一式を解き大太刀を刀掛けに納めてから、ムルジムは大きく溜息をついて私へ振り返った。 「嬢ちゃんの母ちゃんって、なんだ? あれ」 「『なんだ? あれ』って、失礼ですね」  私は口を尖らせる。言いたいことは判るよ。でも、言い方ってもんがあるでしょ。ムルジムは母の手前極力顔に出さないようにしていたが、動揺は伝わってきた。 「猫頭獣人族の女性って、シャムみたいな、ほっそりしたヒトばかりだと思っていたから……」  片手で頬を撫でつけながら、ムルジムはベッドに腰を下ろした。  母の体格は女だてらにムルジムと遜色ない。所謂(いわゆる)、巨女。女傑ってやつ? 砂色の豊かな毛並みと金の瞳を持つ、一族の中では一番強い弓を引ける射手だ。 「……とても5児の母とは思えねぇ。いや、驚いたわ。あれならパートナーとっかえひっかえでも充分納得だ」 「え? そっち?」  私は目を剥いてムルジムを見た。 「えー? ムルジムさん的にもうちの母ってストライクゾーンなわけですか?」 「なんだよ、そんな顔して……。女性として魅力的なヒトだと言いたかったんだ。家庭内は『案外平和』とか言ってたくせに、メッチャわだかまってんじゃねーか」 「わだかまってるのは家庭事情じゃなくて、母からミリも『女性としての魅力』を受け継がなかった自分に対して、です!」  そーだよ。今だモテモテの母に、どういう感情を抱いたらいいのかよくわかんないんだよ。やせっぽちでチビの私は、どう逆立ちしたって猫頭獣人族(このコミュニティ)における魅力的な大人になれる気がしない。 「いいじゃねぇか。嬢ちゃんはパートナーは一人いりゃ充分なんだろ?」 「そりゃそうですけど……」 「だったら心配いらねぇじゃないか」 「はぁ? 簡単に言いますけどね、その一人が見つかるとは限らないですよね」  私が文句を言うと、ムルジムは、は? という顔をして私の顔をマジマジと見た。 「……なんですか?」 「……いや、いい。なんでもない」  ムルジムは首を振って明後日の方を見た。  何なのよ、全く!  私はトゲトゲした感情の持って行き場がなく、そそくさと隣の部屋へ戻った。力や体格では到底母には及ばないから、蟲使いの知識と技だけはと頑張った。おかげで若頭と持ち上げられたけれど、やはり不肖の娘という感情はぬぐえない。父が獣人だったら、違ったんだろうか? とルーツを否定するような考えまで浮かんでくる。  やっぱり、ここに居ると、嫌な事ばかり考えちゃうなぁ……。
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