16人が本棚に入れています
本棚に追加
母との再会を済ませ、私はムルジムと二間続きの空き部屋に通された。装備一式を解き大太刀を刀掛けに納めてから、ムルジムは大きく溜息をついて私へ振り返った。
「嬢ちゃんの母ちゃんって、なんだ? あれ」
「『なんだ? あれ』って、失礼ですね」
私は口を尖らせる。言いたいことは判るよ。でも、言い方ってもんがあるでしょ。ムルジムは母の手前極力顔に出さないようにしていたが、動揺は伝わってきた。
「猫頭獣人族の女性って、シャムみたいな、ほっそりしたヒトばかりだと思っていたから……」
片手で頬を撫でつけながら、ムルジムはベッドに腰を下ろした。
母の体格は女だてらにムルジムと遜色ない。所謂、巨女。女傑ってやつ? 砂色の豊かな毛並みと金の瞳を持つ、一族の中では一番強い弓を引ける射手だ。
「……とても5児の母とは思えねぇ。いや、驚いたわ。あれならパートナーとっかえひっかえでも充分納得だ」
「え? そっち?」
私は目を剥いてムルジムを見た。
「えー? ムルジムさん的にもうちの母ってストライクゾーンなわけですか?」
「なんだよ、そんな顔して……。女性として魅力的なヒトだと言いたかったんだ。家庭内は『案外平和』とか言ってたくせに、メッチャわだかまってんじゃねーか」
「わだかまってるのは家庭事情じゃなくて、母からミリも『女性としての魅力』を受け継がなかった自分に対して、です!」
そーだよ。今だモテモテの母に、どういう感情を抱いたらいいのかよくわかんないんだよ。やせっぽちでチビの私は、どう逆立ちしたって猫頭獣人族における魅力的な大人になれる気がしない。
「いいじゃねぇか。嬢ちゃんはパートナーは一人いりゃ充分なんだろ?」
「そりゃそうですけど……」
「だったら心配いらねぇじゃないか」
「はぁ? 簡単に言いますけどね、その一人が見つかるとは限らないですよね」
私が文句を言うと、ムルジムは、は? という顔をして私の顔をマジマジと見た。
「……なんですか?」
「……いや、いい。なんでもない」
ムルジムは首を振って明後日の方を見た。
何なのよ、全く!
私はトゲトゲした感情の持って行き場がなく、そそくさと隣の部屋へ戻った。力や体格では到底母には及ばないから、蟲使いの知識と技だけはと頑張った。おかげで若頭と持ち上げられたけれど、やはり不肖の娘という感情はぬぐえない。父が獣人だったら、違ったんだろうか? とルーツを否定するような考えまで浮かんでくる。
やっぱり、ここに居ると、嫌な事ばかり考えちゃうなぁ……。
最初のコメントを投稿しよう!