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翌朝、朝食の後、砦の広場にコミュニティのハンターと蟲使いたちが集まって、避役撃退の会議が開かれた。そろそろ、花の季節が終わり蜜蟲が冬ごもりに入る時期だ。昨年もこの時期に避役の一回目の襲撃があった。蜜蟲の養蟲場の見張りを手厚くして様子を見ているが、最近、斥候とみられる避役を目にすることが多くなったらしい。
メンバーの輪の中心に立ち皆を見渡していた私の母が、重々しく口を開いた。
「冬に向けて蜜蟲が花の蜜を存分に蓄える今時を狙い、再び避役が来襲する可能性が高い。昨年の今頃に起きた来襲は未明。蜜蟲たちは起きる前であった。今回も同じように襲撃してくるだろう。各自、得物の手入れは怠らぬように。また、この度、我が娘アルフェッカがジャカランダから助太刀を連れ帰還した。ムルジム氏だ」
紹介されたムルジムは軽く皆に会釈をした。
「聞くところによると、我がコミュニティに避役が来襲したのはファウンテン周囲の環境の変化が影響したものとのこと。よって、避役来襲の折にはファウンテン側からも助太刀が来る予定だという。これだけ人手があれば、避役の殲滅も可能と思われる。皆、今度こそ決着をつけようぞ! 誰か質問はあるか?」
一人の射手が手を上げた。
「ファウンテンから助太刀が来るとのことでありますが、ここに来るまで一日はかかる計算。それで助太刀が務まるのでありましょうか?」
もっともな質問だ。それに、ムルジムが手を上げて答えた。
「俺の知り合いに翼竜使いがいる。合図を出せばソイツが助っ人を乗せてこっちに飛んでくる手筈だ。パウロで数日掛かるところをひとッ飛びで日帰り出来る速さだ。ファウンテンからここまでなど造作もない」
コミュニティのメンツがどよめいた。翼竜使いなんて、聞いたことがないから当然だ。アルの「大事な役割」……こちらの状況が分からないまま同行を頼むのは気が引けた為、必要時、アルがビハムと一緒に助っ人を連れてくることになっている。
その後、避役来襲時の手筈を確認し、会議は解散となった。
「アル、昨夜は充分休めたかしら?」
皆が居なくなってから母は私の肩に手を置いて微笑んだ。金色の瞳は興奮気味に輝いている。綺麗だし、頼りになるし、本当に自慢の母だ。半分はその血をひいているはずなのに、このヒトには一生近づけないし適わない。劣等感に凹みそうになる。でも、大好きだ。
「うん。ぐっすりと眠れたわ」
久しぶりに、香草とキングサリの懐かしい匂いに囲まれて眠った。急ごしらえの寝所だったのに、心づくしの寝床の準備に感謝しかない。
「うふふ。あんな大喧嘩した後だったから、戻ってきてくれたのは嬉しいわ。強いハンターに成るっていったって、そんなに早く強くなれるわけでは無いしねぇ」
砂色のにこ毛にふんわりと抱きしめられた。甘い体臭に兵隊蜂寄せの香草の薫りがまじり、ここしばらくの緊張感を思う。
「ホントは、あなたがパートナーを連れて帰ってきたのかと思ったのよ?」
「へ?」
私は間抜けな声を上げて、母を見上げた。パートナー? 背後にいたムルジムに振り返る。ムルジムは顔を顰めて自分をゆび指さしていた。んなわけねーだろよ、と呟く。はい。それには全面同意デス。
「失礼ながらそれはねぇぜ。俺はガキは趣味じゃねぇ」
腕を組んだムルジムは、母の早とちりに不機嫌丸出しで返した。
「なんだ。ザンネーン」
母は悪戯っぽい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
何なのよ、全く!
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