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襲撃
砦で過ごすようになって数日が経過した。養蟲場の巡回警備に参加したムルジムは、斥候として現れた避役の動きから、他のハンターたちと頭を引っ付け合わせて撃退する際の作戦を練り始めた。
「問題は、群れの本拠地が解らないことだ。群れの全体数も解らん」
「幼獣含めて2,30頭と言ったところでしょうか。本拠地に卵もあるかもしれませんが……」
「斥候は2頭交替で来ていることは解っております」
「うむ。少しずつ削っていくしかなさそうだな」
本拠地を探るために、迂闊に後を付けて森の奥に引き込まれたら帰ってこられない可能性が高く、それでは元も子もない。
「本拠地を突き止めるのは、アルに頼めばいいんじゃないでしょうか」
私はいつもの調子で呟いて、周囲のメンツがキョトンとした顔をしたのに気が付いた。あ、そっか。ここでは私が「アル」なんだった。ややこしいなぁ……。
「翼竜使いに、空から突き止めてもらうことにしましょう。えっと……あの、翼竜使いの名前が『アルシャイン』なんです」
ここでようやく皆が合点した顔をした。ムルジムは苦笑して顎に片手を当てている。
いくつか罠を作って、斥候の通り道に設置することにした。斥候が戻ってこないと、本隊が来る恐れがあるので、タイミングは大事だ。
「早晩、信号弾を上げることになるな。嬢ちゃんは眠れるときにちゃんと寝とけよ」
「はい。……ムルジムさん、助っ人さんたちが出来るだけスムーズに動けるようにするには、毒を封じる必要がありますよね」
ふと思いついたことを口にすると、ムルジムは眉間に皺を寄せた。
「そりゃそうだが……。蹴爪だぞ? 避役の武器である鉤爪の直ぐ近くだ。足回りにもぐり込んで切り落とすなんて危険極まりない。変なことを考えているのなら止めとけ」
それはそうだけど、あれがある限り避役に近付けない。コミュニティのハンターたちが矢を射かけて足止めをくらわせている僅かな時間があれば、蹴爪を切り落とせるかもしれない。ともかくも近付かなくては避役を倒すのに時間がかかってしょうがないのだ。20頭以上の避役を倒そうとなったら、何百本の矢が必要になるのやら……。プルスみたいにデカさで押されまくると力負けするけど、身軽さと俊敏さなら勝機はあるかも。大太刀のムルジムより、双剣の私の方が小回りが利くし……。
ムルジムに「危険極まりない変な考え」と言われても、自分に出来る可能性を思うと考えずには居られなかった。
その翌日の未明、私はけたたましい警報音と炸裂弾の音で目を覚ました。ついに、避役の斥候が罠にかかったのだ。
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