1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

 今日こそは、ちゃんと、はっきりと……。 「おかえりぃ、遅かったね。今日はユウ君の好きな生姜焼きだよ」  失敗だ、また失敗だ、最悪、残念、私っていちばんの「嘘つき」じゃん。  言おう言おうと思っていたことが、ユウ君の顔を見ると「まあ、明日でいいか」なんて、先送りにしちゃうし。  自分に嘘をついて、一生のお願いを聞き入れてしまいがちだし。 「ありがとう、桃菜のそういうところ大好き」  香水のにおいをさせたまま、ユウ君は私を抱きしめる。あったかい。やわらかい。 「しょうがないな……」 「なにそれ、シャレ?」  違うよ、と私はユウ君を見上げて微笑む。  ぎゅっと、足の指を内側に曲げて。  胸がちくりと痛んで、鼻の奥が酸っぱくなっても。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加