3.

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 リコの歩みは遅れていた。双子の姉であるミアを背負っていたからだ。二人は追放された者たちの最後尾を進んでいた。  病気がちだった姉のミアが成人できたのは、生まれもった才能のおかげだ。  ミアはインフェリアの中でも、類いまれなる美貌の持ち主だった。幼少の頃にスペリアの貴族に見初められ、屋敷の中で守られながら20年を生かされてきた。  しかしスペリアの法は絶対であり、双子の姉から貴族の庇護は無くなった。  街の外の世界は、病弱な少女にとってなお過酷だった。気候の厳しい変化が、じわじわとミアの生命力を削り取っていく。  姉を何とか姉を守りたかったコウは、追放される前日に水と薬を巧妙に外壁のくぼみに隠しておいた。  持ち出せたのはわずかな量でしかない。それでもコウは一日でも長く姉を生かしたかった。 「コウ! それは食い物か?」  万事休すだった。皆から離れて歩いていたことを、同朋に疑われてしまった。 「おいおい、水もあるじゃねえか! お前ら女の武器を使って、気取ったスペリアどもから盗んでいやがったな!」  抵抗は意味がなかった。コウは戻ってきた男たちに殴られ、吹き飛んだ。姉のために用意したパンや薬水(やくすい)は、全て奪われてしまった。  コウは悔しさに涙を流した。ミアが震える手を伸ばして、赤くなった妹の頬をさすった。 「馬鹿な男たち……コウ、見て。あの人たち、ひもじ空き過ぎて、薬と水の区別もつかないんだわ。私の薬は常人には劇薬だというのに……」  久しぶりの食料にありついた男たちの、歓喜の声が聞こえる。しかし騒ぎ声はだんだんと小さくなっていき、やがて酸素を求める喘ぎ声に変わった。  やがて不毛な大地に立っているのは、コウとミアだけになった。
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