エピローグ

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*  就寝前のひと時、ガレベーラはせっせとレースを編んでいる。  防寒用のブランケットを装飾するものらしい。 「昔は、レースなどよりももっと必要なものがあると思ったものだけれど、やっぱりレースをつけた方が女の子は喜ぶのですって。貧しいからこそ、そういうものもまた大切だとトーロ夫人がおっしゃっていたの」 「僕も手伝おうか」 「さすがに無理だわ。ラナンはさっき手伝ってくれたけれど」 「ラナンが? あいつにできるのなら僕も……」 「あら、ラナンったら驚くほど上手なのよ。きっと、ルメルに教わったのね」  ラナンにルメルという恋人がいることを、グウィディウスもガレベーラも知っている。  針子組合で働いている孤児の娘で、ガレベーラの助力によって生き延びることができた一人だった。  今、この国には同じように人間らしく生きることができるようになった者はたくさんいる。  ラナンとルメルの身分が違うなどという無粋なことを言うつもりはないし、二人の関係を温かく見守っているところだ。   「ガレ、ずいぶん伸びたね」  グウィディウスはガレベーラの銀の髪をひと房、手に取った。  背中をすぎるくらいに長くなった。 「また切ってしまうの?」 「そうね、そろそろね」 「ガレ、どうかな? 髪が長いうちに結婚式でもあげないか。式で髪をきれいに結ったら値打ちがついて、貴族が高くで買うと思うんだ」  王都に戻ってからも、ガレベーラは髪を伸ばさなかった。正確には、伸ばしては切ることを繰り返した。  絹糸のごとき髪は、長くなると切って売った。  ガレベーラは、カトル家の財産として持っていたもののほとんどを金に換えた。  カトル家の屋敷は、改装し、今は貧しい人の簡易宿泊所となり、リビの村にいたイオは、職業訓練所の所長に任命され、いまやガレベーラの片腕だ。  国王となったアルディウスの協力も得て、国の事業として各地に教育を施すための施設もいくつか建った。  さすがに、そろそろいいだろうとグウィディウスは思っている。 「素敵だわ! 髪と髪飾りを競売にかけましょう! 髪は、わたくしの唯一の財産だもの。誰かの助けになるのなら喜んで」 「誰かの助けになるのなら、喜んで結婚してくれるの?」 「ええ! わたくしはなんて幸せ者なの。ありがとう、グウィディウス」  愛しいひとのキスを受けながら、グウィディウスは苦笑が漏れる。 「君にしかできないことと言ったけれど、ここまでやるとはなぁ……」    嬉しいような、悔しいような、誇らしいような、まぶしいような。  元王子と元令嬢の結婚にふさわしい幸せな瞬間ではないかもしれない。  しかし、グウィディウスとガレベーラはなによりも幸せだと感じていた。 「さすがに結婚式にはドレスを着てよね」  グウィディウスが言うと、すかさずガレベーラは言った。  それも競売にかけるわ、と。
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