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「パンを焼くのは素敵なことだけど、顔も髪も粉だらけだよ。鏡は見た方がいいね。もうレディなんだから。ああ、そうだ。騎士仲間から古着をもらってきたから。明日、街に行くときに持っていくといい」
ペルラは肩をすくめ、
「元王子様が古着集めだなんて、笑い者なのではなくて?」
「まあね。おかげでみんなから物乞い騎士殿下って呼ばれてる」
グウィディウスは笑って、自分もパン焼きの手伝いをすることにして、袖を捲る。
「ガレ姉様にも困ったものね。ちょっとくらいお兄様の身になって差し上げればいいのに」
「気にしてないよ。物をもらえると僕の使命感が満たされる」
「そういうのは、貧乏性っていうのよ……」
グウィディウスが留学していた国は、貴族も平民も、身分に関係なく、能力に平等に学べる国だった。
それまで、貴族以上の人間としか接してこなかったグウィディウスは、当時新鮮な衝撃と感動を覚えたものだ。
そして同時に、当たり前に持っていた価値観に、疑問を持つことができた。
人間は誰しも平等であり、身分の差にそれが侵されてはならない、身分差で人が区別されることはあってはならない、上下があってはならない。
それこそが当然であり、自国もそんな考えでありたいと強く思ったものだ。
帰国し、ガレベーラを探していたときにはそんな理想などすっかり忘れ去っていた。
しかし、彼女を見つけ出し、いざ再会してみれば、ガレベーラはいつぞやのグウィディウスの理想の一歩も二歩も先を歩んでいた。
皮肉なことに、望む望まないにかかわらず、ガレベーラはその身をもって実感していたのだった。
王都に戻ったガレベーラが、貴族には戻らなかったのは当然のことであった。
貴族ほど空虚はものはない。
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