プロローグ

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「トーロ夫人、ごきげんよう」  年の頃はもう四十に差し掛かろうとしている夫人は、王城の夜会という場にあっても華やかさのかけらもなかった。  笑顔もなく、今夜もしぶしぶの参加だったことがうかがえる。  ガレベーラはくじけそうになりながらも、さらに笑顔で続けた。 「刺繍はお得意でいらっしゃいますか? わたくし、皆様と孤児院に贈る刺繍の会を開いておりますの。トーロ夫人も次回は是非ご一緒しませんこと?」  夫人が、人の集まる場所に出て来ないから色々と噂をするのだろうし、もし実際に何らか困っていることがあるのなら、親密な関係になって事情がわかれば、何かの助けになれるかもしれないと思ったのだ。  しかし、トーロ夫人は扇をぱさりと開いて口許を隠す。 「お誘い下さってありがたいのですけれど、わたくしはご遠慮させて頂きますわ」  ガレベーラはそれに対して薄く微笑んだ。
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