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「お嬢様、お食事でございます」
父がいなくなってから、誰かと――といっても屋敷内にいる母と妹だが――食事をとることは一度もなく、独りだ。
運んできたのは見たことのないメイドだった。
常に控えているはずの侍女のアンは、最近いないことがほとんどだ。
シミラに仕えているのかもしれなかったが、その方が待遇がいいのなら、それで構わないと思った。
今のガレベーラは、茶会や夜会の予定はもちろん、他に出かける機会もなく、頼む用事も多くはない。
読み人に、方角が悪いと言われたからと仮の部屋へと移らされた。
質素で、陽の当たらない部屋だったが、自らの沈みきった心持ちと同じ雰囲気だと、ガレベーラはむしろ進んでそこに移り住んだ。
そこに運び込まれたドレスや装飾品はほとんどなかったが、仮住まいのつもりでもあったし、必要にも迫られることはなかったので、気にしなかった。
その頃には、ガレベーラは自分が継母に冷遇されていることに気づいていたが、それもグウィディウスが帰国するまでの我慢だと、継母をはじめ、執事にも不満は漏らさなかった。
しかし、あまりに質素な食事が出された日、ガレベーラはとうとう執事を呼んだ。
「ねえ、カンダール、教えて。家政に憂慮があるの?」
「申し訳ございません。代わりのお食事をお持ちいたします」
「足りないわけじゃないのよ。お金がないんじゃないか心配してるの」
「財産はたっぷりとございます。……お嬢様の、ご心配には、及びません……。お嬢様がご心配なさることでは……。このようなお食事になり、大変申し訳ございません……」
長年カトル家に仕えてくれている冷静沈着な執事の、その歯切れの悪さが気になった。
「そう? 困ったときは言ってね。私にできることはするから」
「お嬢様……」
執事が、珍しく苦痛に顔をゆがませたように見えた。
これまでガレベーラは財産管理の勉強をしたことがなかったので、早速、ひそかに関連の本を取り寄せるようにメイドに頼んだが、それも結局届かなかった。
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