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必死に執事や侍女の名を呼ぶ。
すぐに姿を現すはずなのに、廊下には見知らぬメイドしかいない。
そして、ガレベーラは両側からそのメイドたちに引きずられるようにして、たちまちのうちに屋敷の、しかも裏口から馬車に押し込められた。
馬車は、ガレベーラがいつも乗るようなものではなかった。
板張りの台がむき出しで、座面も扉もない。これは荷馬車だ。幌があるだけでもありがたいと思わないといけないのかもしれない。
「ねえ、離して! お願い、離してちょうだい! カンダール! ミラ! ねえ、ミラどこにいるの!?」
ガレベーラは髪を乱し、恐怖に震えながら叫ぶ。
継母の姿ももう見えない。
ガレベーラから顔をそむけるメイドが右と左に、悲痛なガレベーラに目もくれないみすぼらしい御者がいるだけだ。
「お義母さま、なぜですか! グウィディウス様はなんとおっしゃっておられるのですか? ……せめて、グウィディウス様のお返事を待ちとうございます……」
ガレベーラはついに泣き崩れる。
「いいかい、出すぜ?」
抵抗するガレベーラにお仕着せを乱されたメイドたちは、もはや見送ることもせず服装を直しながら、屋敷のなかに入っていく。
早速、馬車は走り出した。
御者台の背中にかかる布を押しのけて、御者に向かって叫んだ。
「待って! 出さないで! どこへ向かうの? なぜ!?」
「わしらのみたいなもんが理由を知るわけねえだろうが。ただ、あんた様を北の辺境まで送り届けるよう言われただけだ」
労働階級でさえなさそうな、汚らしい男はあっけらかんとそう言った。
「北ですって!?」
「まあ、屋敷の下男から聞こえてきた話だけども、なんでも王太子殿下様が、あんたを妃に迎えるとか言い出したらしいぜぇ」
「アルディウスが……?」
「姫さん、継子なんだって? 奥様は妹姫を側妃に上げたいそうだから、未婚のあんた様が邪魔なんだとさ」
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