1.没落

5/14

269人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
 その話に震えが止まらなくなったガレベーラは、我が身を両手できつく抱いた。  抱く手も自分のものしかなく、その手で抱きしめるものも我が身しかない。 「……わたくしは、北の辺境へ嫁がされるの?」 「北はひどく荒れた地だけどな。これも人生よ。お気張んなせえ。領主もトシだからそのうちぽっくり逝きなさりゃあ、またいい目見られる日がくるだろうよ」 「北までは、どのくらいかかるの?」 「七日もありゃあ着くだろ。ちょっとばかし長い旅だが、それまではわしと仲良くしとくんなせえ、お姫様」  御者は下品な笑いを浮かべてガレベーラを振り返った。  恐怖と絶望で再び涙が溢れ出る。  ガレベーラは右に左に揺れる不安定な板の上を這うようにして、御者から離れた。  すぐそこに、むき出しの地面が見える。  御者の話はともかく、北の地に連れていかれることだけは間違いないようだった。  膝をかかえて、そこに額を押し付けた。 「なぜこんなことに……? ああ、グウィディウス、どうすればいいの」  外出するような恰好ではない。なにより侍女もつけず、どこに行くかもわからないのにトランクの一つもない。  荷台にはいくつかの木箱や麻袋が積まれているだけだ。  ガレベーラは必死に落ち着こうとした。  この先、たとえ北に嫁ぐことになったとしても、とにかく今の状況を知りたい。   アルディウスに会いに城に行けば、全ての事情はわからないまでも、助けてはもらえるだろう。  再び、路面の凸凹に揺られながら這って行き、前方の御者に尋ねた。 「あの、北に行く前にお城に寄ってもらうことはできますか」 「はあ? 無理に決まってら! 奥様から、けして寄り道するんじゃないってこちとらきつーく言われてんだ! 北まで寝ずに走れなんて無茶まで言いやがる。大金もらう前に俺も馬も死んじまうって話だ!」  そして、御者は鼻で笑ってから、 「だいたい、この馬車で行って、お城の門が開くとでも?」
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

269人が本棚に入れています
本棚に追加