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その話に震えが止まらなくなったガレベーラは、我が身を両手できつく抱いた。
抱く手も自分のものしかなく、その手で抱きしめるものも我が身しかない。
「……わたくしは、北の辺境へ嫁がされるの?」
「北はひどく荒れた地だけどな。これも人生よ。お気張んなせえ。領主もトシだからそのうちぽっくり逝きなさりゃあ、またいい目見られる日がくるだろうよ」
「北までは、どのくらいかかるの?」
「七日もありゃあ着くだろ。ちょっとばかし長い旅だが、それまではわしと仲良くしとくんなせえ、お姫様」
御者は下品な笑いを浮かべてガレベーラを振り返った。
恐怖と絶望で再び涙が溢れ出る。
ガレベーラは右に左に揺れる不安定な板の上を這うようにして、御者から離れた。
すぐそこに、むき出しの地面が見える。
御者の話はともかく、北の地に連れていかれることだけは間違いないようだった。
膝をかかえて、そこに額を押し付けた。
「なぜこんなことに……? ああ、グウィディウス、どうすればいいの」
外出するような恰好ではない。なにより侍女もつけず、どこに行くかもわからないのにトランクの一つもない。
荷台にはいくつかの木箱や麻袋が積まれているだけだ。
ガレベーラは必死に落ち着こうとした。
この先、たとえ北に嫁ぐことになったとしても、とにかく今の状況を知りたい。
アルディウスに会いに城に行けば、全ての事情はわからないまでも、助けてはもらえるだろう。
再び、路面の凸凹に揺られながら這って行き、前方の御者に尋ねた。
「あの、北に行く前にお城に寄ってもらうことはできますか」
「はあ? 無理に決まってら! 奥様から、けして寄り道するんじゃないってこちとらきつーく言われてんだ! 北まで寝ずに走れなんて無茶まで言いやがる。大金もらう前に俺も馬も死んじまうって話だ!」
そして、御者は鼻で笑ってから、
「だいたい、この馬車で行って、お城の門が開くとでも?」
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