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どうにか見覚えのある屋敷にたどり着き、門番の男性に声をかける。
「あの、ごきげんよう……。私はガレベーラ・カトルと申します。こんな夜分に、突然に失礼とは承知で、ローズ様にお会いしたいのですが」
門番は不審な目でガレベーラをじろじろと見てから、少し待つように言われ、しばらく門の外で待たされた。
屋敷の中で待たせてくれるだろうと思っていたのに、そうではないようだ。
やがて戻ってきた門番は、
「明日、お越し頂きたいとのことですが」
「あの、明日では遅いのです……、今お会いしたいのです」
「そうは申されましてもなぁ、なんせこんな時間ですから」
「では紙とペンを貸していただけませんか。お手紙を……」
「書くのは構いませんが、ローズお嬢様にお渡しするのは、どのみち明日にりますよ?」
予想していなかった対応に、ガレベーラは藁にも縋る思いで、次の友人の屋敷を尋ねた。
「あの、お助けいただきたいのですが」
その屋敷でも、執事と同じ問答だった。
「ご友人でいらっしゃいますか。では、明日お改め下さいますでしょうか。よろしければ馬車でお屋敷までお送りしましょう」
そのとき、屋敷の窓に人影が見える。
逆光でそれが誰だかわからなかったが、カーテンに隠れるような影は、友人の令嬢がガレベーラの様子を見ていたのかもしれなかったが、どうぞ中へと言われることはついぞなかった。
次に訪ねたのはポピー嬢の屋敷だった。
「……旦那様がお許しになりませんでしたので、あいにくですが他をお当たり下さい」
バスケットを手渡された。
「お嬢様が御用意下さいました」
ナプキンをめくるとたくさんのクッキーが並べられていた。
親愛なるガレベーラ様へ、とカードまで入っている。
こみ上げてきた涙を必死に堪えながら、屋敷を辞すと、途方に暮れて、また歩き出した。
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