1.没落

7/14

269人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
 どうにか見覚えのある屋敷にたどり着き、門番の男性に声をかける。 「あの、ごきげんよう……。私はガレベーラ・カトルと申します。こんな夜分に、突然に失礼とは承知で、ローズ様にお会いしたいのですが」  門番は不審な目でガレベーラをじろじろと見てから、少し待つように言われ、しばらく門の外で待たされた。  屋敷の中で待たせてくれるだろうと思っていたのに、そうではないようだ。  やがて戻ってきた門番は、 「明日、お越し頂きたいとのことですが」 「あの、明日では遅いのです……、今お会いしたいのです」 「そうは申されましてもなぁ、なんせこんな時間ですから」 「では紙とペンを貸していただけませんか。お手紙を……」 「書くのは構いませんが、ローズお嬢様にお渡しするのは、どのみち明日にりますよ?」  予想していなかった対応に、ガレベーラは藁にも縋る思いで、次の友人の屋敷を尋ねた。 「あの、お助けいただきたいのですが」  その屋敷でも、執事と同じ問答だった。 「ご友人でいらっしゃいますか。では、明日お改め下さいますでしょうか。よろしければ馬車でお屋敷までお送りしましょう」  そのとき、屋敷の窓に人影が見える。  逆光でそれが誰だかわからなかったが、カーテンに隠れるような影は、友人の令嬢がガレベーラの様子を見ていたのかもしれなかったが、どうぞ中へと言われることはついぞなかった。  次に訪ねたのはポピー嬢の屋敷だった。 「……旦那様がお許しになりませんでしたので、あいにくですが他をお当たり下さい」  バスケットを手渡された。 「お嬢様が御用意下さいました」  ナプキンをめくるとたくさんのクッキーが並べられていた。  親愛なるガレベーラ様へ、とカードまで入っている。  こみ上げてきた涙を必死に堪えながら、屋敷を辞すと、途方に暮れて、また歩き出した。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

269人が本棚に入れています
本棚に追加