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「あにうえー、ま、まってー」
「グウィののろま!」
森の奥の泉を目指して、アルディウスと競走していたガレベーラは、後ろから来る小さな少年を待った。
「ガレベーラ……、待っててくれて、あ、ありがとう……」
息も切れ切れのグウィディウスは、全身で呼吸をしている。赤くした顔は苦しそうで、涙目になっていた。
その頃、ガレベーラが森だと思っていたそこは、ただの城の庭だった。
とにかく広くて、王城に行くたび、違う遊び場を見つけたものだ。
「グウィ、一緒に行きましょ」
「ごめん、ぼく、のろまで……」
「まだ幼いんだもの、当たり前よ」
アルディウスより五つ下の弟は、何につけてもアルディウスはおろかガレベーラにも敵わないことばかりで、いつも必死に二人の後を追う姿は王城では見慣れた光景だった。
それは単に年の差のせいだと思われていたが、兄弟の性格の違いもあったらしい。
数年後、二人の王子は全く違った成長を遂げた。
「ガレ、今度の剣術模擬試合、観に来るの?」
とある夜会で、顔を合わせたグウィディウスは珍しく不機嫌だった。
穏やかな性格は第二王子の長所でもあるし、社交やダンスを得意とするのは弟の方でもある。
「ええ。グウィも出るんでしょ?」
ガレベーラが仰ぎ見なければ、その憂いを帯びた表情が伺えないほどに、小さかった王子は今や立派に成長していた。
「出るけど、……優勝するのは難しいと思う」
王子は十二で成人の儀を迎えると、近衛見習いに混じって剣術指南を受けなければならない。
剣は必須だというのに、グウィディウスは昔から苦手なのだ。それで、試合も憂鬱らしい。
一方で、兄のアルディウスは試合に出られるようになって二年目で、決勝戦で近衛騎士団の団長と対戦するほどの天賦の才も持ち主だった。
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