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神はアルディウスにないものをグウィディウスに与えた。
武力より学力を、勇ましさより優しさを、逞しさより品性を。
父である王に似た兄に対して、グウィディウスは顔も髪の色も、瞳の色まで側妃であった亡き母と同じ、透き通るような緑色で、儚げな雰囲気と相まって美男子としての評価も高い。
「グウィディウス、貴方が勝ちたいと言えば、忖度されて、優勝できるかもしれないわよ」
ガレベーラが肩をすくめれば、
「そんなので一番になってもなんの意味もない」
「そんなことを言ったら、模擬試合の優勝なんて称号にこそ意味はないとわたくしは思うけれど」
「でも、やっぱり男は強い方がいいだろ?」
拗ねたように言うグウィディウスが可愛らしく思えて、ガレベーラは笑ってしまった。
王族の盛装で立つ姿は、王宮のシャンデリアよりも眩しいくらいなのに。
「そうかしら。わたくしは別にどちらでも」
「そう? だったら気も楽だけど」
「ええ、事実、わたくしは強いよりも心優しい方が好きよ」
「なら、少しは僕に有利だな。心優しいかどうかはわからないけど、少なくとも強くはないから」
この広間で、一、二を争う身分にあるとは思えない情けない顔で笑った。
「……ガレ」
「なあに?」
「兄上と結婚するの?」
近頃、アルディウスの結婚が、現実味を帯びた話として囁かれている。
その第一候補に、ガレベーラが挙がっていることは、年齢的にも関係的にも、当然でもあり、順当でもあった。
ガレベーラは王太子妃としてなんら問題はなかったし、ガレベーラが嫁ぐに最も相応しい男性はアルディウス以外にいなかった。
「……グウィディウスこそ、貴方の妃になりたいご令嬢たちからの熱い視線には気づいていて?」
「知らない……。知っていても僕には関係ないよ」
「わたくしも、アルディウス殿下がどなたと結婚されるかなんて関係なくてよ」
「それは……」
言いかけて言葉を途中でやめたグウィディウスは、ガレベーラに向かって手を差し出した。
「一曲どう? 兄上の視線が痛いけど」
「喜んで」と手を重ねる。
踊り終え、解放されるときに、グウィディウスは呟くように言った。
「……僕の結婚相手は、ガレベーラに無関係でないといいな」
アルディウスは、しばらくして、五代貴族のうちのカトル家ではない家の令嬢を正妃に迎えた。
ガレベーラの想い人も、そしてグウィディウスの想いも、アルディウスはどちらもよく知っていた。
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