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「以前から、海の向こうの帝国に興味があった」
密かに呼び出され、二人きりで会った王都の公園で、グウィディウスは言った。
「もっと学びたいんだ。知識を増やしたい。知らないことを知りたい。それに、行けば、僕は僕にもっと自信が持てると思う」
グウィディウスが留学の資格を得る試験に通ったと聞かされた。
「兄上が結婚したから今だから決心がついたなんて言うと、ひどく格好悪いけど。最大のライバルである兄上を自由にさせておく自信は僕にはないからね」
「それは、どのくらいなの?」
「……少なくとも三年という約束だ」
「さん、ねん……」
ガレベーラには途方もなく長い期間に思えた。
「この先の三年、ガレベーラが結婚を急かされる時期にあたるだろうことはわかってる」
婚期を逃すことは、令嬢として何より恥ずべきことと言われている。
しかし、それよりもガレベーラが一番気にかけたのは、三年もグウィディウスに会えないことだった。
グウィディウスはいつも近くに存在し、一番の理解者であった。
「僕も三年もの間、ガレベーラを一人にするなんて自分を馬鹿だと思うよ。僕のわがままだから、待ってて欲しいとは言えない。僕にできる約束は、帰ったきたら君にプロポーズをするという仮約束だ」
ガレベーラはそこでとうとう涙を堪えきれなくなった。
「待ってるわ。わたくしは貴方以外の方と結婚する気などないもの。だから、必ず帰ってきて」
グウィディウスは、ガレベーラの手を取り、そこにペンダントを握らせた。
「これは母さんの形見だ」
大きな緑の石は、グウィディウスの瞳と同じ色だった。
「これで僕を思い出して」
そして、そっと触れるだけの口づけをガレベーラに残して、グウィディウスは旅立って行った。
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