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孤児院には一晩世話になり、朝食の前に辞去を告げた。
今のガレベーラでは、いるだけで彼らの迷惑になる存在だと分かったからだ。
食事も部屋も、それでなくとも数少ない彼らの取り分を減らすだけだ。
「平気よ。お友達のところへ伺うから。昨夜の寝床を用意して頂けただけでも感謝しています。本当にありがとうございました」
「いえ、申し訳ございません。お力になれず……」
恐縮する院長に、頭をあげてもらい、
「むしろ、謝らなくてはいけないのはわたくしだわ。あなた方のこと、何もわかってなかった……。パンや食料などもっと必要なものを持ってきていればよかった……。ごめんなさい」
「ガレベーラ様にお越しい頂けるだけで十分ありがたいのですよ」
徒歩で大丈夫ですかと院長は言い、「では、せめてこれを」と糸で編んだ肩掛けを手渡された。
早速羽織れば、暖かいうえに、どことなしに心もとなく感じていた不安が少しましになる。
「……刺繍などではなくて、わたくしたちは編み物の会をした方がよかったかしらね」
自嘲的に言ったガレベーラに、院長が首を振る。
「いえ、ガレベーラ様に頂いた美しい刺繍の上等なハンカチは、あの子たちの唯一といえる宝物なんです。皆、それは幸せそうに日に何度も眺めていますわ」
「本当、に……?」
「確かにそれでおなかは膨れません。けれど、夢見ることさえ簡単ではない孤児に、夢や希望を、ガレベーラ様はいつも与えてくださっていたのですから」
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