1.没落

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*  ガレベーラは最後の気力を振り絞って、橋の上に立った。  暗い闇がたゆたうような夜の川は、ひたすらに無言で、不気味ではあったが、もう怖いとは感じなかった。  今夜も明日も、生きていくだけならできるかもしれないが、ガレベーラはそこまでして生きていたいとは思えない。  希望めいたものは、もはやついえた。  頼る人も居らず、頼れるところに余裕はない。  貴族の屋敷の、知人の令嬢ですらこんなにも面会が叶わないのに、王城に入れるわけもない。  そもそも、王族でもないのに王家に助けを求めるなど、許されることではないだろう。  服の下に下がっているペンダントに触れる。 「ごめんなさい、貴方の帰りを待てなくて」  どうにか生き永らえたとしても、もうガレベーラに令嬢としての価値はない。  グウィディウスの名誉を汚すだけの存在だ。  それは、亡き父の名も同様である。 「さよなら、グウィ……」  夜風が、ガレベーラの髪をなびかせた。  月の光に照らされて、銀色に輝く。  一歩踏み出さんとした時、何かが手に触れた。  見ると、少女がガレベーラの手を握っている。    先ほどの兄妹らしき、二人の子どもだった。 「あなたたち……」  兄の方がゆっくりと差し出したのは、パンだった。  さっきのパンの半分だ。  「……くれるの?」  こくりと頷く。  半分の、その半分を兄妹二人で分けるのか。  三分の一ずつにせず、半分をガレベーラに与えようとしてくれている。  こんなにも小さく貧しい子どもが、とガレベーラは、くずれるように膝をついていた。  二人の目線と変わらない高さになって、 「ありがとう。でも、三つに分けなきゃ平等ではないわ」  ガレベーラは涙をぬぐい、笑顔を作る。 「わたくしに、この街での暮らし方を教えてくれる?」  両手で二人を抱きしめる。  けして清潔とはいえない二人を、そして、抱きしめるガレベーラももう華美でも優美でも、美しくもなかった。
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