269人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
*
ガレベーラは最後の気力を振り絞って、橋の上に立った。
暗い闇がたゆたうような夜の川は、ひたすらに無言で、不気味ではあったが、もう怖いとは感じなかった。
今夜も明日も、生きていくだけならできるかもしれないが、ガレベーラはそこまでして生きていたいとは思えない。
希望めいたものは、もはやついえた。
頼る人も居らず、頼れるところに余裕はない。
貴族の屋敷の、知人の令嬢ですらこんなにも面会が叶わないのに、王城に入れるわけもない。
そもそも、王族でもないのに王家に助けを求めるなど、許されることではないだろう。
服の下に下がっているペンダントに触れる。
「ごめんなさい、貴方の帰りを待てなくて」
どうにか生き永らえたとしても、もうガレベーラに令嬢としての価値はない。
グウィディウスの名誉を汚すだけの存在だ。
それは、亡き父の名も同様である。
「さよなら、グウィ……」
夜風が、ガレベーラの髪をなびかせた。
月の光に照らされて、銀色に輝く。
一歩踏み出さんとした時、何かが手に触れた。
見ると、少女がガレベーラの手を握っている。
先ほどの兄妹らしき、二人の子どもだった。
「あなたたち……」
兄の方がゆっくりと差し出したのは、パンだった。
さっきのパンの半分だ。
「……くれるの?」
こくりと頷く。
半分の、その半分を兄妹二人で分けるのか。
三分の一ずつにせず、半分をガレベーラに与えようとしてくれている。
こんなにも小さく貧しい子どもが、とガレベーラは、くずれるように膝をついていた。
二人の目線と変わらない高さになって、
「ありがとう。でも、三つに分けなきゃ平等ではないわ」
ガレベーラは涙をぬぐい、笑顔を作る。
「わたくしに、この街での暮らし方を教えてくれる?」
両手で二人を抱きしめる。
けして清潔とはいえない二人を、そして、抱きしめるガレベーラももう華美でも優美でも、美しくもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!